これはどうしたもんか……
そう思いツンとそっぽを向いた彼女を黙って目で追い続けることはや一時間。
あーあ、可愛い顔が台無しじゃねえか。と思っていても口には出せない。そんな事を言ったら益々不機嫌になるのは目に見えている。

モテる男は辛い、とよく言ったものだ。いや、決してモテるのが嫌な訳ではないのだけれども。だけどこうもあからさまに不機嫌な彼女を見てしまっては、俺もほとほと困り果ててしまう。

まあ、仕事を放置して小一時間ばかし町の女の子達と話込んだ俺が悪いには違いないんだけど。多分、楽しそうだったんだろうな。もしかしたら顔がにやけてたとか?だとしたらかなりヤバイ。

「……っ」

口を開いて何か言葉をかけようと思うけれど、何も喉から出てきてはくれない。勿論、目の前でせっせと晩飯を作ってる彼女は止まってくれるわけもない。
これまで何度かこんな事はあったけど、此処まで酷いのは初めてだった。一種の愛情表現と思えば可愛らしいけど、もし愛想を尽かされたとしたら?そう思うと、心なしか視界が真っ白になった気がした。

「クレア」

「なに」

意を決して呼んだ彼女の名前。決して振向いてはくれなかったけど、まだ口を利いてくれることに安堵の息を吐く。

「さっきの事、怒ってるよな」

「……」

「うん……当然だよ、な」

否定も肯定もしない彼女の返答に、勝手に答えを出し勝手に体を強張らせる自分につい苦笑が零れる。
それでもやっぱりクレアは俺を見てくれない。いつもなら「何笑ってるのよ」と睨んでくるはずなのに。益々やばいな。そう思えば、自然と顔から苦笑なんて表情は消えてなくなってしまう。

「ねえ、クレア」

「やだ」

「俺まだ何も言ってないんだけど」

こっち向いてって言うの、読まれてたんだろうな。はっきりと拒否を見せた彼女の背中は、とても小さく見えた。

はぁ……と出た深い溜息は俺のもの。

恐る恐る手を伸ばしクレアの肩を掴めば、彼女はビクリと体を震わせる。けれども振り解こうとはしない。
ゆっくり彼女の体を廻せば、目の前には俯いたクレア。やっぱり俺の顔も見たくないんだろうか。たちまち不安がこみ上げてきて、胸がぎゅっと縮んだような気がした。

「きらい」

「えっ…?」

キライ。彼女はゆっくりとした口調で再度そう言った。
その一言に呼吸すら忘れるほど酷く心が痛みだす。まるで、脳が機能を停止したかのような錯覚に陥った。

「こんな私が、きらい」

――は?

耳に飛び込んできた言葉と同時に、忘れていた酸素がぶわっと入ってきて、思わず咽そうになる。
びっくりした。てっきり俺の事だと思ったから。しかし胸を撫で下ろしたのもつかの間。目の前では目を手で覆い明らかに泣いているであろうクレア。小刻みに肩を震わせる姿に再び胸が縮まる思いがする。

「クレア……」

そっと彼女を胸に抱き寄せ、優しく、そしてどこかぎこちなくクレアの頭を撫でる。黙ってしがみつくクレアを見ながら、ここまで不安にさせてたのかと激しく自分に嫌気がさした。

「ピートが、好きだから、嫌われたくなくて、いつもいつも嫉妬する自分が嫌で、私、」

ただ感情を声にしただけなのだろうその言葉。それでもちゃんと伝わるクレアの気持ちに、先程の嫌気はどうしたのか、自然と顔には笑みが零れる。果たしてこれは安堵からだろうか。それとも、こんな状況に関わらず彼女を可愛いと思う気持ちからだろうか。そんな俺の笑みに気付いたのか、腕の中のクレアが眉を寄せて俺を見上げて居る。

「ごめんな」

色んな意味をこめて言えば彼女は更に顔を歪ませた。そっと涙を指で拭うけど、それは止まる様子を見せない。

「不安にさせてごめんな」

二、三度首を横に振ったクレアを再び胸に抱き寄せ、包み込むかのように腕をしっかりと回す。そんな俺に答えるかのように頬を寄せてきたクレアが愛しくて仕方がない。

「俺はクレアしか見てないから。クレアが大好きだから、さ」

もう泣き止んでよ。今は、クレアの笑顔が見たいから。

「……む、りっ、」

しかし、クレアの瞳からは尚も零れ続ける涙。困ったな……。涙で冷たくなった頬に触れ、じっと彼女を見つめてみる。

「んっ……!」

そのまま不意打ちのキス。
目を丸くして固まった彼女の瞳はすっかり涙を流すことを忘れてしまっている。

唇を離して微笑んで見せれば、顔を真っ赤にさせたクレアに睨まれて。だから瞼に唇を落とせば、今度はギュッと腕を捕まれた。

「〜っ!卑怯!」

「俺からして見ればクレアが卑怯だよ」

可愛い事言って、可愛い顔してさ。こんなに俺はクレアしか見てないってのに、嫉妬するなんて。

「嫌いだなんて言うなよ。これからもいくらでも嫉妬してくれて結構だから」

「だから、嫉妬するような事しないでよね!」

すっかりいつもの調子を取り戻したクレアに、顔が綻ぶ。

うん、と笑顔を見せれば、つられるように漸くクレアが笑顔を見せてくれた。

でもね、嫉妬するクレアも大好きだから。
そう言えばきっとまた顔を赤く染め上げるんだろうな。そんな彼女を想像して、俺はそっとクレアの耳元に唇を寄せた。






初めまして!あいら様!
この度はフリリク企画参加して頂いてありがとうございます。企画立ち上げたものの参加者がいらっしゃらなかったらどうしようと一人緊張していた中、いち早く参加して頂いた時は物凄く嬉しくて、安心しました。本当にありがとうございます(^^)

リク内容に"へたれじゃないピート"とあったはずなのに、中盤まで少しへたれてて申し訳ないです…!!

相変わらず拙い文ですが、少しでもお気に召して頂けたら幸に思います。
リクエストありがとうございました!今後ともよろしくお願いします。





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