ぼんやりとした光に自然と細くなる目。
無意識のうちに重たい腕を翳し、自ら飛び込む光を調整する。

――頭が痛い。ここは何処だ?

そんな間の抜けた事を思いながら、漸く慣れてきた目を徐々に開き、自分の置かれた状況を把握しようと努め出す。

鮮やかな緑に、真っさらな空。そして心地好い空気から外に居る事は把握出来る。そしてここが見慣れた景色だということから、マザーズヒルの麓だろうと思う。
確か僕はいつも通りの休日を過ごそうと此処へやって来たはずだ。しかし、此処で昨夜遅くまで読み耽っていた本の続きを読んでいた事までしか記憶にない。

「……すっかり眠ってしまったのか」

そうだとすれば途中で抜けている記憶にも説明がつくと言うものだ。
溜息混じりに呟いて見れば、余計に貴重な休日を無駄にしたような気がして、すっかり意気消沈してしまう。

「あ、おはようございます。ドクター」

突然、降ってきた声にビクリと体が震える。
すぐ隣で聞こえた声に顔を向けると、そこにはクレア君の姿があった。

――どうして、此処に…

呆気に取られた僕を見て、彼女は微笑んだまま小さく首を傾げる。
僕の記憶の中に、今日彼女と出会ったという記憶は見当たらない。

「どうして、」

「え?」

「そんな顔してます」

そう言ってクスリと笑ったクレア君に、何とも言えない気恥ずかしい気持ちになる。寧ろ欠点なのだが、感情を表情に出すのは苦手だ。けれどもいつも彼女にはあっさりと読み取られてしまう。

「こんなとこに素敵な男性が落ちてたら普通放って置けないですよ」

そう言ってクスリと笑う彼女に、僕もほんの少しだけ口端を吊り上げた。冗談だと分かってはいるものの、くすぐったいような、何とも言えない、けれども決して不快ではない感情が込み上げて来る。

「ふふ、ドクター困ってる」

「……全く君は、」

まるで小さな子にからかわれたような気持ちになったのは、彼女が悪戯っ子のように楽しげに笑うからだろう。
ふぅ、と息をついた僕に彼女はそっと手を伸ばした。

「どうせ、私は子供ですよー」

そう言って目を細めた彼女は、先程のような雰囲気をもう纏ってはいなかった。
僕の髪を指で梳かしながら、クレア君はふわりと微笑を浮かべる。

「クレア君ぐらいだよ、僕の感情を勝手に読み取るのは」

そう言えば、僕の髪を梳く手を止めて、彼女は目を見開く。
かと思えば、すぐに笑顔を取り戻して再び手を動かしだしたのだ。

「だっていつもドクター見てるもの」

誰よりも分かって当然よ、と呟いた彼女は照れ臭そうにはにかんだ。
そんな彼女に魅入って、僕の顔に血が集まっていくのを感じる。ああ、これじゃクレア君じゃなくても僕の感情がわかるだろう。

「悔しいな、」

そう呟いた僕に、クレア君は不思議そうに首を傾げた。じっと食い入るように見つめる瞳に、また読み取られてしまう思えば、僕の手は自然と髪を梳く彼女の手首を掴む。
そしてそのまま力を入れれば、彼女はあっさりと僕の腕の中に収まった。

「愛してる」

口から零れ落ちた愛の言葉に、腕の中の彼女はピクリと動く。読まれるより先に、自分からどうしても伝えたかった言葉。

ガバッと顔を上げたクレア君はこれまでに見たことないぐらい顔を真っ赤にしていて、何と無くスッ、と心が晴れやかになったような気がする。

「……っ」

何かを言おうと口を開く彼女に、僕はすかさず唇に人差し指を当てる。

「わかってる」

コツンとクレア君の額に僕のそれを重ねる。

僕だって、君を見てきたんだから。
そう心の中で呟けば、それを読み取ったかのように微笑むクレア君。

――やっぱり、僕は君には勝てないようだ

まるでつられるかのように笑みを零して、僕はそっと彼女の赤く染まった頬に手を伸ばした。






瑞ヶ谷はのめ様、大変お待たせ致しました……!
びっくりするほど遅い上に相変わらず拙い文で申し訳ありません!
個人的には楽しんで書かせていただいたのですが、何分それに文章力が伴わず…
それでも、受けとって頂けると幸いです。

この度は相互ありがとうございました。これからも末永く宜しくお願いします!





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