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乾燥した空気に、ピリピリと痛い程冷たい風。
そしてただでさえ真っ白なこの世界を、更に白く染め上げようと降り続ける雪。

その、ゆっくり、ゆっくりと空から落ちてくる様を、カイはただぼんやりと見つめていた。

「何してるの?風邪、ひいちゃうよ」

そんなカイを見兼ねたクレアは、少し怒ったように口を尖らせ彼にそう言った。

けれど、カイは「うん、」と小さく返しただけで、それを止めようとはしなかった。
そんな空返事に、クレアは困ったように肩を窄める。仕方がないので、自分に巻き付けられたマフラーを取り、彼の首にそっと巻き付けた。
これで少しでも寒さを緩和できるはずだと思い、少し気の晴れたクレアは静かにその場を後にしようと、曝された首を竦め踵を返す。

「雪、」

しかしそれはカイの一言で停止される。

まるで独り言のようなそれに振り向けば、彼は相変わらず空を見上げたまま、ゆっくりと瞬きをしていた。

思わず足を止めたクレアは、ふと同じように空を見上げた。薄暗い空から止めどなく降り続く雪は、毎年代わらない光景なのに何故か違和感を感じる。

しかし直ぐさま、そうかとクレアは思った。
隣に居る、ほんの少し肌が白くなった彼を見る。そして、まるで冬に似付かわないこの男のせいだと、彼女はふわりと笑った。

きっとカイも同じ様な事を考えてるのだろう。鼻先を赤くして、今年の初雪をじっと眺める姿は妙に呆けていた。

「雪見たの、久しぶり?」

「ガキの頃以来、かな。久しぶり……なんてもんじゃないな」

はは、とカイは思わず苦笑を浮かべた。もう一生、雪などとは縁がないと思っていたはずだったのにと、そっと内でぼやく。

「どう?冬も悪くないでしょ?」

晴れた日の夜空とか凄いんだから、と付け加えてクレアはニッと笑った。

確かに、とカイは頷く。
しかし、やっぱり夏が恋しい気持ちも少なからず彼の中にはあった。寧ろ、今までの彼ならそうとしか思わないはずだった。

それがどうだ。悪くない、など素直に思う自分が確かに居る。冬を過ごすという事を、今正に実感している自分が存在しているのだ。

「……冷たい」

そっと彼女の手を取り、自分の頬に当ててみる。今まで何度も彼女の手に触れたことは合ったが、こんなに冷たい彼女の手を、カイは知らない。

今まで、この時期になると何度彼女に触れたいと思ったか分からない。
何度彼女が恋しくなったか、分からない。

「……慣れない冬だから、寒いでしょ?家、入ろうか」

そう不安気に問い掛けるクレアに、カイは静かに頭を振る。

「悪い。もう少し、このままで居たい。こんなにもクレアが側にいる事が幸せだと思わなかったから」

だから、もう少し、そう言ってカイはそっと目を閉じた。

改めて噛み締めた幸せに、つい口が緩む。

そんなカイにつられるように微笑んで、クレアはそっと彼の胸に飛び込んだ。


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