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「……ねむ」

毎年毎年起こしにくるじいさんもどうかと思うけど、分かっていながらも起こされないと起きない自分もどうかしてると思った。
その都度俺は成長してないなと嫌と言う程実感させられる。そんな風に思うようになったのは、確か去年あたりからだったか。だからこそ、今年は絶対起きようって俺なりに意気込んではいたんだよ。

それがどうだ。クリフとデュークさん達と飲み明かしてしまい、ものの見事に今年も飲み潰れてしまったのだ。

まだ寒い夜風に当たりながら、少し痛い頭を摩る俺。眠気と見事な二日酔いに、周りの様子を気にする余裕すら今の俺には無いようだ。

「おはよう。グレイ君」

だから不意に掛けられた声にも情けないながらも声を上げそうになるんだ。驚いた俺にクレアさんは寒いね、と手を擦りながら話し掛けてくれる。それに対し、ああ、うん、とかしか言えない俺。もっと何か言葉はないのかと密かに肩を落としたのは、クレアさんにはばれてはないと思う、……多分。

「あ、そうだ。今年も……その、よろしくお願いします……」

巡り巡って俺の頭が弾き出した言葉が、新年の挨拶だった。なんとなく、面と向かって言うのは恥ずかしかった。
そんな俺に、クレアさんはにこりと微笑み掛けてくれる。それだけで一瞬、二日酔いが飛んでったような気がするのは、もう俺がおかしくなったからなのかもしれない。そう切実に思っては、また頭痛が再び俺を襲った。

「こちらこそ、今年もよろしくお願いします。また御贔屓にさせて頂きます」

「あ、うん。今年は、俺がクレアさんの道具作れたら、いいかなあ、なんて」

ははっ、と悲しく笑い声が消えるのは、まだその夢が遠いから。
口に出すのは簡単なこの目標は、まだずっと先に見える。早く早くと焦る気持ちと共に、じっくり学びたいという矛盾した気持ちが俺の中に生まれて、なんだかあまり前に進めてないような気がするんだ。

「今年はね、それが本当になってる気がするな」

「……どうして?」

あまりにも凛として言うもんだから、すかさず俺は聞いた。自分ですら手応えがない上に、クレアさんがこんな事を口にするのは初めてだったから。
だけど、クレアさんは表情一つ変えなかった。相変わらず笑顔で、まるで遠くを見るかのように目を細める。

「傍で、見てきたから」

あとは女の勘ってやつ、と付け加えて、クレアさんは無邪気に俺に微笑みかける。
ドクン、と心臓が高鳴った。
かっ、と熱くなった顔はきっと真っ赤なはずだ。まだ暗いから幸いクレアさんには見えていない。頼む、後少し日よ昇らないでくれ……!

「ク、クレアさんは今年の目標は!?」

慌てて抱負を尋ねる俺に、クレアさんはうーん、と何も考えてなかったのか唸り出す。今のうちに顔の熱を冷まそうと冷静を装って見るものの、ちっとも熱は引く様子は無かった。
そんな俺を不思議そうに見ながら、クレアさんはえっとね、と抱負を語り始める。風で乱れる綺麗な髪を耳に掛ける仕種が、俺にはとてもスローモーションの様に見え、じっとそれを見つめていた。

「今年も、こんな風に一緒に居られるように、1年間頑張りたいな」

「えっ……」

俺の、聞き間違いだろうか。
今聞こえた言葉は、確かにクレアさんの声だった。だったら、さっきのは……

ねえ、それってどういう意味?そう尋ねようと口を開いた瞬間だった。

「この町の皆と。もちろんグレイ君ともね!だから、また今年も町の一員でいられるように頑張るわ!」

そう、クレアさんは俺が尋ねる前にオチを告げてくれたのだった。なんだ、俺と、じゃないのか。いや、正式には俺も入ってるんだけど。
盛大に溜息を吐く代わりに、盛大に肩を落とす俺。

そんな俺にクレアさんが微笑んでるなんて知らずに、俺は今年こそ彼女に思いを告げる事を目標に付け加えた。

「ね、グレイ君。明るくなってきた」

俺の袖を引っ張って、クレアさんは目を輝かせて徐々にオレンジ色に染まっていく空を見つめていた。
それぞれが感嘆の声を漏らしては今年の初日の出に注目する。

「ねえ、クレアさん」

ゆっくり、ゆっくりと昇る日を見つめ、俺は彼女にだけ聞こえるように呟いた。

ん?と首を傾げたクレアさんは、多分俺の顔をしっかりと見てるのだろう。きっと彼女を直視したら、俺はこの言葉を続けられないから。だから俺は、色を変えてく空を、ただただ見つめて拳を握り締め、小さく口を開いた。

「……また、来年も一緒に見よう」

意を決した俺の言葉。

小さな、小さな決意だけど、俺にとっては、大きな一歩だから。

「……うん!」

また、一緒に見ようね。そうクレアさんは、楽しげな声で応えてくれた。

ギュッと俺の袖を掴む手に力が篭った気がした。
その手に、俺の手を重ねようとしてみるが、直ぐにやめる。
今はこの約束だけで、前に進めるから。それまでは……

徐々に広がるオレンジ色。綺麗なそれから一瞬目を逸らせば、ふいにクレアさんと視線が交じる。

そして俺達は、新しい年の幕開けに、そっと微笑み合った。













今年もうちのグレイはヘタレです!



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