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「だ〜れだ!」

目に飛び込んでいた活字が消え、一気に暗闇に閉ざされた。何事かとピクリと動いたドクターだったが、すぐさま楽しそうな声が聞こえ、状況を理解する。
もう、何度耳にしてきた声だろう。声だけで彼女の顔が安易に思い浮かぶなんてとドクターは口元を緩ませた。

「さあ、誰だろうね」

「えー!」

淡々と語るドクターに、目隠しをしている人物は拍子抜けしたようだった。
すぐさま言い当ててくれるのを期待していたのだろう。予想外の展開に、それじゃあと言葉を続ける。

「ヒントをあげましょう」

「お願いするよ」

「ヒントその1。私は健康です」

「この町の人は大半が健康だからね」

なんとアバウトなヒントなんだとつい笑ってしまいそうになる。
いつも診察に来ては健康だの仕事してるの?だの言われている彼女にとっては大ヒントのつもりだったのだが、ドクターはまだ当ててやる気はないらしい。

意地になった彼女は、じゃあじゃあ!と声を少し荒げた。

「ヒントその2。私はミネラル医院の常連です」

「健康で、常連か」

うーんと、ドクターはわざとらしく考える素振りを見せた。そんなの考えずとも分かるはずなのに。
彼女は期待を膨らませ、笑顔でドクターの顔を覗き込んでいる。しかし、ドクターは相変わらずうーんと唸っていた。

「わからないな」

ぽつりと呟いた彼の言葉に、彼女は、そんな…と声からでも分かるくらい落胆した。そんな声を聞いて少し虐めすぎただろうかとドクターは胸を痛ませる。

しかし、彼女はめげなかった。

最後のヒントですよ。と告げた声には妙に緊張感が感じられた。
黙って頷いたドクターを見て彼女は息を呑む。
すっ、と息を吸う瞬間すら長く感じられた。

「私は、ドクターが大好きです」

そうはっきりと聞こえ、ドクターは口元を緩ませた。
やはりここまで粘った甲斐があったというものだ。
今にも逃げ出しそうな自分の目を覆っている彼女の手をしっかりと掴む。暫くぶりに解放された目には、再び活字が飛び込んできた。

今、彼女はどんな顔をしてるのだろうか。振り返れば分かる答えを想像し、ドクターはふっ、と笑う。
想像するより、彼女を早く見たかった。
早く、彼女の名前を呼んであげたかった。

「……クレア君」

目に飛び込んできた真っ赤な彼女は、想像以上に赤くて、愛しくて。少し微笑んでいるのは想定外の事だった。

軽く手を引けば、彼女はすっぽりと自分の腕の中におさまる。彼女の暖かい温もりに、もっと早くにこうしたかったと初めて気付いた。

「……ドクター、自意識過剰です」

「そうかもしれないな」

恥じる様子も無く言ってのけるドクターに、クレアは微笑んだ。

ドクターの背に腕を回して、彼の胸に顔を埋める。ふわりと香るコーヒーの香りが二人の距離感を知らせてくれてるようで、つい笑みがこぼれ落ちた。

それにしても、こんなに近くにいても顔色一つ変えないドクターが少し悔しかった。
どうか私が顔を上げた時、少しでも彼の顔が赤くなってますように。そう心の中で願いながら、クレアはそっとドクターの胸に唇を落とした。


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