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「え……あ……」

「おはよう!カイ!今年も夏が来たのね」

うん。そうだよ。俺の季節がやって来たんだよ。
今年もね、俺楽しみにしてたのよ。クレアに会うの。手土産なんか買ってきてさ、さっきまでにやけてたんだよね。どんな顔すんのかな、ってさ。

それがさ、楽しみにノックしてみればこれだよ。
去年より綺麗になっててさ。顔付きもすっかり変わってさ。

おまけに腕には……、

「ハハハ。何、コレ」

乾いた笑いがでるのは現実逃避したいから。笑ってればなんとかなる気がしたんだ。

でも現実は厳しかった。
コレじゃないわよ、と少しムっとしたクレアは、俺に見せ付けるように、腕の"コレ"を前に突き出すのだ。

「可愛いでしょ?先日生まれたの!」

「ハハハ!可愛いね。何?クレアの親戚でも泊まりにきてんの?」

クレアと同じ金髪に、クリクリとした愛らしい目。色白の先日生まれたらしい赤ん坊はクレアにそっくりだった。
きっと、親戚かなんか泊まりに来てるんだよ。そうに違いない。相変わらず、乾いた笑みしか出て来ないが、俺はそう必死に言い聞かせたのだ。

「もう、違うわよ!私の子供よ」

私に似て可愛い女の子なのよ、とクレアは見事に俺の期待を裏切る。
ざっくりと切り付けられたような、そんな感じがして、俺は今にも地に膝を付けたかった。

無邪気に笑う赤ん坊は何が楽しいのか、絶望に満ちた俺の顔に触れようと手を伸ばしている。
まるで天使のようなその笑顔は、確かにクレアを思わせた。

「ダメだよ。カイなんかに触れたら食べられちゃう」

スッとクレアの後から伸びてきた手は、俺に触れる赤ん坊の手をやんわりと掴んだ。

――ああ、忘れもしないこの声
この町に住む、天使の笑顔をもつ第二の人間。

にこりと笑うその表情は、何度見たことだろうか。
そしてその笑顔の裏に潜む悪魔に何度身震いしただろうか。

「やあ、久しぶりだね。カイ」

「クリフ……」

また暑苦しい季節がやって来たんだねとクリフは相変わらずの笑顔で毒づく。
これが"天使"と"天使の面した悪魔"との違いだ。

暑苦しいのはお前だろ、とは言えなかった。かわりに拳をぐっと握り締めて、俺の目の前でクレアの腰に手を回し微笑む悪魔を見ない振りをする。

「どうしたの?こっち向きなよ、カイ」

グググと効果音が付きそうなくらい片手で俺の顎を掴み正面向かせる悪魔ことクリフ。哀れ俺。見て見ぬ振りは通用しなかった。

ちくしょう……!こいつは何年経っても変わっちゃいない。よりによってなんでクリフなんだ。まだグレイとかの方がマシだった。

ハァ、とごく自然に溜息は零れた。ちらりとクレアを見れば、彼女はにっこりと笑ったまま。

密かに想いを寄せていた彼女はこの1年で妻となり母となった。そして幸せそうに笑ってるのだ。この"悪魔"の隣で。

まさかこんな形で終焉を迎えるとはおもわなかったよ。こんなにも幸せそうだなんて、例え相手が"悪魔"だろうが口出しすらできない。

「あ〜……俺はこれから何を楽しみにここに来たらいいんだ……」

思わず頭を抱え込む俺は、ピクリと僅かにこめかみを動かしたクリフに気付きもしなかった。

つい洩れた本音に、再度溜息も流れ出る。

まるで腑抜けのようになった俺。
そんな俺に慈悲深くも手を差し延べてくれたのは、思いもよらない人物だった。

「あ〜」

「へっ……?」

ペチペチと彼女は俺の頬を叩き楽しそうに笑う。

その天使の笑顔に俺は、光を見た気がした。

「そうか、そうか。キミが大人になるのを楽しみにここに来ればいいんだな」

「あいっ!」

元気よく返事(?)した彼女の頭を撫でながら、俺は自然と笑みが戻るのを感じる。
きっとクレアの様に綺麗になるんだろうな。安易に想像できる未来のこの子を思い浮かべ、漸く立ち直れた俺は店を開く準備に取り掛かろうと牧場を後にしようとした。

――その時だった、

「ははは。じゃあ今のうちに見れないようにしとこうね」

手を鳴らしながら微笑むクリフ。しゃれにならないくらい鈍くいやな音を鳴らしながら、クリフはどんどん俺との距離を縮めて行く。

妻と子に背を向けたクリフは、遂に冷たい眼差しを俺に向けてくる。凍えるようなそれに、口角を吊り上げる様は誰がどう見たって"悪魔"である。

ああ、神様。俺が何かしたのでしょうか。
今日一気に受けた絶望感に自分が哀れに思えて仕方ない。

後で生きてたら教会行こう。そう誓って、俺はグっと脚に力を入れ、逃げる準備にかかった。















その後、カイの行方を(ry)



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