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ドサッ、と鈍い音を立てて屋根の上から雪の固まりが崩れ落ちた。
久々に見た屋根の色になんとも言えない懐かしさを覚え、つい呆けて見入ってしまう。

――もうすぐ、春がやって来るのだ。

「そうか、春が来てしまうのか……」

ぽつりとぼやいて名残惜しげに雪を踏み締める。ギシッ…と独特の音を上げ雪はくっきりと足跡を残した。

去年はあんなに春が来るのが楽しみだったのに。

自然と出て来る溜息に苦笑を浮かべる顔。色鮮やかに染まる村や牧場を想像しては、つい緊張感が高まった。

「どうしたの?溜息なんかついて」

急に声が背後から聞こえて、俺は慌てて振り返った。

びっくりした?なんていたずらっぽく笑う彼女を見れば、つい口元が緩んでしまう。

「ポプリは、春が来るの楽しみ?」

「うん!楽しみだよ!」

だよな、と乾いた笑いが真っ白な牧場に響き渡る。

彼女の答えは聞くまでもないことはわかりきっていた。

春と口にしただけでこの喜び様。今、彼女の考えている事が手にとるようにわかる。

「お花が沢山さくでしょ。牧場も賑やかになるし、それに花祭りで……あなたと、踊れるわ」

そうほんのり頬を赤くして言う姿が物凄く可愛かった。つられるように上昇する自分の体温。ついでに顔がにやけそうになるのを必死で堪える。

しかし、彼女の「なによりね、」と話を続ける言葉にだらしがなかった俺の顔は嫌と言う程引き締まる。冷汗が額に浮かぶのを感じながら、更に嬉しそうに笑う彼女をじっと見つめていた。

「パパが帰ってくるもの!」

穏やかに微笑む彼女はとても幸せそうに見えた。そして、そんな彼女の向こうに俺が今最も恐れている"パパ"の輝かし笑顔が見えて身震いが起こる。

そう、春は"パパ"が帰って来るのだ。

きっと来年も爽やかに戻って来るのだろう。そしてすぐに俺に会いに来てくれるんだ。

そして俺はあの娘を溺愛している"パパ"に伝えなければならないのだ。

娘さんを俺に下さい、と

大体、まだ彼女にもプロポーズしてないのにどうして親父さんに先に伝えなければいけないのかと誰もが思うだろう。
俺だってそう思う。

だけどもし彼女にプロポーズして後日挨拶に向かったら"パパ"はどうするだろうか。即刻俺を張り倒してポプリに「パパなんて嫌い!」と泣かれとんでもない修羅場になる確率は高いはずだ。
そんな光景しか思い浮かばず、それならばと考えついたのが先に了承を得る事だったのだ。それでもやっぱり憂鬱だ。なんたって、あの素敵な"パパ"の表情を酷く変えてしまう事には変わりが無いのだから。

「ピート、どうかした?」

心配そうな声を出して、ポプリは眉を下げて俺の顔を覗き込んでいた。

なんでもないよ、と首を振っても、彼女は不安な表情を浮かべたまま。

困ったように笑って見せてそっと彼女の薄ピンクの頬を手の平でつつみ込めば、冷たかったのかポプリは身じろぎする。
そんな彼女が愛しくて、唇を重ねようと顔が自然と動くのだけれど、ぼんやりと"パパ"の顔が良いタイミングで浮かんできて、俺は固まるようにして自分にストップをかけたのだった。

目の前にはキョトンとしたポプリの姿。
心にはまだ笑顔の"パパ"

安心して下さい。まだ手、出してませんから。

そう心の中で呟いて、俺は彼女に微笑む。

「ポプリ、好きだよ」

だから、俺頑張るから。

そう続ければポプリは今日一番の笑顔を見せてくれた。

――春まで、あと、少し















2のポプリの可愛さは異常



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