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※無理して笑うのはやめての続編



「お前って寂しい女だな」

「そっくりそのまま返してやるわよその言葉」

広場への長い道程を私たちは無表情で歩いていた。
幸いな事に誰ともすれ違ってない。こんな腐った顔見られたら、今まで築き上げてきた物が崩れちゃうもの。

今日はそりゃもー若い子から年寄り連中まで、みんなが楽しみにしている女神祭。
これに該当するのは無論、私たち2人を除いて、だ。

口にもしたくない思い出したくもない例の一件より、すっかり恋愛という反吐のでそうな単語から遠のいた私たちは、あぶれもんで泣く泣く嫌々今回の祭りに参加する。
何が悲しくてこんな可愛らしい格好で踊らなきゃならないんだか。しかし、ゴッツさんにこの衣装を頂いたからには、無下にできない気持ちがあって、私は精一杯着飾ったつもりだ。
よしゃいいのに、それにピートも付き合うと言いだしたのが始まり。そして悲しい事にエスコートのお誘いは誰からもなかったのだ。
それ故、冒頭のセリフが出て来たのだろう。ピートだって誰も誘う相手がいなかったくせに。

「決めたわ。来年からはこの格好してゴッツさんの所に行く」

「ははっ!そりゃ良い考えだ!むしろ今から引き返すか?」

「いいね!そうと決まれば誰かに見つかる前に……」

「クレアさん?」

見つかった。早速見つかった。
思い切り舌打ちしそうになるのを抑え、私達は声のした方へ体を反転させる。
いつの間にか広場の前まで来てたようだ。目の前では私に声をかけたであろうマリーが手を振っていた。
笑顔を作り手を振る私とピート。ほんと愛想笑いが得意なんだから。チラリと奴を横目で見て、私は噴き出すのをこらえた。

「クレアさん、今年は髪結ったのね」

「うん!こんな時くらいしかオシャレ出来ないから」

「すごく可愛いよ!ね、グレイ」

「う、うん。に、似合ってるよ」

「えへへ、なんだか恥ずかしいなあ」

両手を頬に当て、照れたそぶりを全開で見せる。
それを見たピートの顔は「ドン引き」と書いてあった。2人にばれないくらい一瞬睨みを利かせれば、ピートは再び笑顔を取り戻す。

「マリーも可愛いよ。メガネ無いの、新鮮だね」

「ふふ、なんか恥ずかしいな」

ありがとうと頬を赤らめたマリーは正真正銘照れていた。少し悔しい思いをしたのは私の中での秘密にしておく。

広場を見渡してみれば、もうほとんどの人が揃ってるようだ。ほんと、この町の人はお祭り好きだ事。

思い出したくないとはいえ、自然と私の目は彼を探していた。
隣にいるピートもそう。マリーとグレイと会話しながら、器用にあの子を探しているんだろう。

「そういえば、今回エリーとドクターは欠席みたい」

「「えっ!?」」

一瞬、心を読まれたかと思った私たちは思わず声を上げる。ハッとしてピートを見れば奴もまた私を見ていた。全く、やっぱり同じ事思ってたんだコイツ。
すぐさまマリーに視線を戻せば、彼女は残念そうな表情を浮かべている。どうやら心を読まれたわけじゃ無いらしい。胸をなで下ろすが、心臓はまだ五月蠅くてかなわない。

「つわりがキツイみたいで……大変よね。でも、赤ちゃん、楽しみね」

「「はは、そうだね」」

またしてもハモる私たち。笑ってはみるものの、煮え滾る想いでいっぱいだ。

あーあーあー聞きたくも無い事をつらつら話されて今すぐにでも耳を塞ぎたい。
けれど準備も何もしていなかった心は重いダメージを受けたようで、切り変える話すら浮かばなかった。

適当な相槌をする私たちにまっっったく気づいてないマリーは、お似合いの夫婦だとか、羨ましいだとか、容赦なくダメージを叩き込む。
もう私たちのHPゲージは真っ赤っかだ!

「そういえば、2人はまだなの?結婚」

「「はぁぁぁぁ!?」」

まさかのとどめの一言にノックダウンしそうなのを何とか踏ん張る。

待って!どういう事なの!?予想だにしなかった言葉にもう笑顔すら作れない私たち。
あまりの驚き様に対するマリーとグレイも面食らったようで、バチバチと2人して瞬きを繰り返していた。

「え、だって付き合ってるんじゃ……」

「ないないないない!!!」

「どこのどいつだそんな大ホラ吹いた奴は!!」

「み、みんなそう思ってるよ!だって2人凄くお似合いだし……」

「ちょっ、ほんとに勘弁して……!」

「駄目だ……俺目眩してきた……」

やっと見えてきた事実。
どうりでエスコートしに誰もこないはずだ……。

この町に来た頃はそりゃもう例の人以外からはモテたモテた。
ムカつくけどピートも同じ。私たちは愛想だけは完璧だから面白いくらいモテてたっていうのに、お互い他の人にうつつ抜かしてる間に町では素敵な勘違いが起きていたらしい。

最悪だ……私も目眩してきた。

「あっ、クレアさんそろそろ始まるみたい!行こう」

「えっ、待って、私踊れる気分じゃ……」

そんな私の言葉が届いてないのか、マリーに腕を取られ広場の中心へと誘われる。
勘弁してくれ…!
最後にみえたピートの顔はまたしても同じ事を思っているようだった。


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