逞しいと言うか、俺の彼女は勇ましかった。
一緒にどう?と魚釣りに誘ったのは、内心「キャー、私魚触れなーい」なんて怯える彼女が見たかったからで、決して次々とデカイ魚を釣る姿を見たかった訳でもないし、ましてやヌシを釣って嬉しそうに魚拓を取る姿を見たかった訳でもない。(まあ、それはそれで可愛かったんだけど)
あと、俺がトマト祭に嫌いなリックのチームに入ったのも、彼女に良いとこ見せたかったからであって、1回戦目から彼女のチームと当たって、おまけに初っ端から彼女の剛球を直に受け、一発も投げずに試合終了するためなんかじゃなかったんだよ。(でも優勝して喜ぶ姿は凄く可愛かったんだ)
彼女は、立派に一人で牧場をやっていけてるし、動物も怖くなければ、虫も怖くない。おまけに好き嫌いもないし、可愛いし、誰にでも好かれるし、そんな彼女だったから、俺なんか居なくても逞しく、勇ましく生きていけるんだって思ってたんだ。
「……おいてかないで」
そう思っていたのだが、震える指先でしっかり俺の服を掴み、潤んだ瞳で見上げてくるのは紛れも無く俺の彼女だった。今にも消えそうな声で俺に訴える彼女の姿は、今まで見たことない彼女の弱さで、勇ましさなんて何処にも無い。
「淋しいよ……カイ」
ボロボロと大粒の涙を零しながら、彼女は唇を噛み締める。
――まいった、な
こんなときに限って何時もの軽口がでてこやしない。
困った事に、涙を拭ってやることも今は出来そうになかった。
何時も勇ましい彼女が、弱々しく泣いてるのだ。
こんな時に物凄くときめいた自分が憎い。けど、仕方ない。想像以上に、弱さを見せた彼女が可愛すぎたのだから。
包み込む様に抱きしめればいつもより小さく感じた。
ああ、駄目だ。可愛すぎて色々制御が利かなくなっちまう。それ程俺の腕の中で震える彼女が愛しくて堪らない。
なあ、もう何処にも行かないから、これ以上俺の心を掴まないでくれ――
そう呟いたのは心の中だけ。だって今それを伝えて、嬉しそうに笑う大好きな彼女の笑顔を見てしまったら、それこそ俺はどうにかなっちまいそうだから。
出そうになる溜息を必死で堪える。同時に更に胸に擦り寄って来た彼女にいよいよ心臓が危険だ!と訴えかけてきた。
――さあ、この状況をどう乗り切ろうか
腕の中のか弱い女の子の頭を撫でながら、俺はただ必死に思考を巡らせるしかなかった。
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