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「どうするんだろ……これ……」

言ってクレアは溜息をつく。
昨晩いくつか作ったしっかりラッピングまで施されたチョコレート。それは思いの外よく出来ていて、誰もが納得いく出来だと思う。

しかし、今そのチョコレートが彼女の頭を悩ませていた。その中でもただ一つ、一番良く出来た、想いを込めたチョコレート。

「どうせ渡せるわけ、ないのに」

遠く海の向こうにいるはずの想い人。一番逢いたくて、一番感謝を伝えたい人が側にいない。

この現実が叩きつけられるのは分かっていた筈なのに。それでも作ってしまった自分にクレアは困ったように切なく笑った。

トン、トン

その時、誰かが戸を叩く音が聞こえてくる。ハッとしたクレアは慌てて戸を開く。何と無く、淡い期待を抱いて。

「ザクさん……」

おはようございます。直ぐさま笑顔を作り挨拶をする自分にクレアは驚いた。

来るはずが、ないのに。
そう心の中で響き渡る冷たい自分の声。キュッと胸が縮まるような感じがして、クレアは拳を握り締める。

「お前に届けなきゃならないものがあってな。差出人にどうしても今日の朝じゃないとダメだと念を押されてたもんで、朝早くにすまないな」

「私に?」

誰ですか?そう尋ねるよりも早く、豪快に笑ったザクは「みてみりゃわかるよ」と包みを差し出した。

受け取ったそれを不思議に思いながらクレアは丁寧に包装された紙を剥がしていく。

そこから出て来た箱の中身はハート型のチョコレート。思わずハテナを浮かべるクレアにザクは箱の隙間にある紙を指差した。

「手紙?」

それを手にしたクレアは、妙に緊張した赴きで二つ折りにされた紙を開いた。

そこにかかれた字を見て、思わず声を出しそうになる程驚くクレア。忘れる筈などなかった。何度、この字を見たことだろうか。

「カイ……!」

溢れそうになる涙を堪え、クレアは下唇を噛み締める。

『クレアへ』

そう書き出された何時もの文に、クレアはつい笑みを零し続きに目を通す。

『元気か?風邪、引いてないか?そっちじゃ今日は感謝祭らしいな。女の子からチョコを貰えるらしいから、クレアのチョコが貰えないのが残念です。今俺がいる街でも似た行事があるんだけど、この街じゃ逆チョコってのが流行ってるらしいから、俺もチョコ作ってみた。これ食って、夏を待ってて下さい。』

そうかかれた手紙にクレアは顔を綻ばせる。途端恋しくなった暑い季節を思い浮かべ、箱をもつ腕に力が篭った。

「ん?」

手紙の右下に、小さくかかれた文字がある事に気付いたクレアは、首を傾げ再び手紙に目を向ける。

『PS.この街じゃチョコをあげるのは好きな人にらしい。だから俺も、愛を込めて』

そう綴られた文に思わず熱くなるクレアの顔。けれどすぐに微笑み、クレアはザクを引き止め自宅へと踵を返した。

向かうのは自分が作ったチョコレート。側にあった可愛らしい便箋にペンを走らせると、そのままクレアはリボンの間に挟み込む。

「ザクさん、お待たせしました」

これをカイに届けて欲しいんです。そう続けたクレアから、ザクは笑顔を浮かべながらチョコの入った箱を受け取る。任せな!と意気込んだザクは、しっかり箱を持つと足早に牧場を後にした。

「……私も。愛を込めて」

再び広げた彼の手紙。
それをしっかりと胸に押し当て、クレアは幸せそうに微笑んだ。


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