しあわせの詩 | ナノ



「シン、お帰り!」

今日も釣れなかったな、と肩を落しながら帰宅したシンに声を掛けてきたのはサラだった。
相変わらず元気よく片手を上げ挨拶する彼女に、すっかり元気を取り戻したシンは、同じ様に片手を上げ返事をする。

「お帰り!シン!」

「わっ、ティナ!」

そんなシンの後ろから、どこに隠れてたのかひょっこり現れたティナ。当然、予想すらしてなかったシンは驚き肩を震わせる。

そんなシンの反応にニヤリと笑い合う二人を見て、グルだったのかと確信した彼は、呆れた様に頭をかく。こんな子供染みた悪戯に引っ掛かる自分が、少し情けなく思わずにはいられなかった。

「何?師匠いないの?」

「買い物行くってさ。それよりシン、手ぶらで帰ってきた所を見る限り……」

「今日もダメだったんだね!」

「うるせー」

やっぱりと笑い出す彼女らに、シンは明日は任せろと意気込んで見せる。が、それも毎度の事である。もはや聞く耳すら持たない二人は、ハイハイと軽く受け流すだけだった。

釣竿を定位置に戻すと、ぴょこんとツインテールを揺らしながらティナが顔を覗きこんでくる。どうしたのかと思う半面、妙に近い距離に戸惑いつつ、シンは咄嗟に少し顔を引いた。

「ハヤトはまだなの?」

ああ、なんだ。彼女の問いに明らかに落ち込んだ自分に、シンは苦笑を浮かべる。てっきり彼女は自分の帰りを待ってくれてたものだとばかり思い込んでいた。それが弟の方だったなんて、とシンは何だか恥ずかしくなる。

「多分もう少ししたら帰るんじゃないか?もう少しいい子で待ってな」

そう笑顔で言うシンは、くしゃりと彼女の頭を撫でる。そっか、と小さく呟いたティナは、残念そうに俯いて見せた。

「なんか、そうしてると兄妹見たいだね」

微笑ましく二人を見つめたサラに、シンはピタリと手を止める。
妹だなんて、傍から見ればそう見えるのか。全く持って彼女をそんな風に見たことなかったシンは、明らかにショックを覚えた。

そんなシンの心情を知ってか知らずか、ティナはじっとシンを見つめる。
言葉を無くしたシンも、ただ彼女を見つめ返せば、ティナはニコリと笑って見せた。

「じゃあ、本当に妹になっちゃおうかな」

「……えっ、」

「ははは、そりゃいいや!ハヤトとくっついたら事実上"義妹"って事になるからねぇ」

よかったね、シン!可愛い妹が出来て!そう続けたサラの言葉に、シンはいよいよ表情を引き攣らせた。
何かが心の底からふつふつと燃え上がるような気がして、シンは思わず拳を握り締める。

そんなシンの拳を、急にティナの両手が包み込む。急な人肌に驚いて振り向いたシンに、ティナは満面の笑みを浮かべ、

「よろしくね、お兄ちゃん!」

極め付けの一言を言ってみせたのだった。

これにより、ブチンと鈍い音をたてて、シンの中の何かが切れた。

「……ざけんな」

「シン?」

「ふざけんな!俺はティナの兄貴になるつもりは更々ないし、ハヤトとくっつくなんて絶対認めねぇ!」

「ちょっと、シン……」

「ハヤトにやるくらいなら、俺がお前を貰ってやる!誰にも渡さないからな!」

勢いに任せて言いきったシンに、二人は唖然としてその場に立ち尽くしていた。どうだとばかりに踏ん反り返っていたシンだったが、シラけたその場の雰囲気に一瞬思考回路が停止する。

自分が何を言ったのか気付いた時にはもう遅かった。突き刺さるような二人の視線に、じわりと冷や汗が額に滲むのを感じる。

何か言わなくては、と口を開いた瞬間だった。ガバリと自分の腰に、ティナがしがみついて来たのだ。
勿論、混乱しているシンには何が何だか分からない。顔を赤くしながらキョロキョロと顔を振り回せば、ニヤリと不適に笑ったサラと視線が交じってしまう。

「へぇ、よく言ったじゃん。想像以上だよ」

「へ?」

「ティナ、よかったね」

「うん!ありがとうサラ」

「は?」

訳が分からない。勝手に進んでいく話に、シンは頭の中がぐちゃぐちゃになるのを感じる。
よかったね、ありがとう。訳の分からない単語が自分を挟んで飛び交うのだ。更に混乱を招くのは無理もない。

「シン、悪いね。あまりにもアンタが行動起こさないからじれったくてさ」

「……ちょっと待て。って事はまさか……!」

嵌められた!漸く気付いたシンを急激に恥ずかしさが襲い掛かる。こいつらグルだったのかと、本日2度目だが同じ事を思う。

しかし、何はともあれ、かなり恥ずかしい事を言った気がするが、思いを告げる事が出来たのだ。結果オーライ、とは言い難い気もするが、兎にも角にも良かったとプラスに考えるほかならない。

「えっと……なんか勢いで言った感じだけどさ、」

そこまで言ってシンは言葉を詰まらせる。少し不安気な表情を見せるティナに、ついうろたえてしまったが、意を決したように咳ばらいをすると、再び口を開いた。

「ちゃんとティナが好きだから」

真剣な顔付きで言い切ったシンに、ティナはうっすら頬を染めて微笑む。

そして返事の代わりに、頬にキスするものだから、シンは勿論固まり、サラは満足気に微笑んだのだった。











この後帰宅したハヤトには何が何やら



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