しあわせの詩 | ナノ



「やあ、子猫ちゃん。こんなとこで何してるんだい?」

「何言ってるの?ダン、この子は子猫じゃないよ」

月明かりに照らされた海岸で、ふわりと揺られるツインテールを見つけ、ダンは思わず声を掛けた。

ピクリと反応した彼女は、どうやら猫と戯れていたらしい。いつもの調子で"子猫ちゃん"だなんて呼んでしまったのが見事彼女の行動とシンクロしてしまっておかしな方向へと向かってしまったようだった。

ダンは苦笑いを浮かべ、

「子猫ちゃんはティナの事なんだけど」

と訂正をいれる。少し小首を傾げたティナだったが、直ぐさま猫が構ってくれと縋り付いてきたため、視線はダンから猫へと移ってしまった。

それを恨めしそうに見つめるダンの姿は今にも指を噛みだしそうな勢いだ。俺も猫になりたいとこの男が思ってるなど、ティナは思いもしないだろう。

「ティナ」

優しく呟いたダンは、そのまま一歩ティナへ近付く。ざくりと浜辺を踏む音が静かな海辺に響いた気がした。

その音に驚いたのか、それとも見知らぬ人間が近づいたことに警戒心を抱いたのか、猫は瞬く間に夜の静まり返った町に消えて行った。
あっ、と小さく声を上げたティナと、そのすぐ後ろに迫ったダンの二人だけがその場に取り残されてしまう。

「あー、……悪い……」

恐らく自分が原因だろうと、ダンは罰が悪そうにそう言った。
立ち上がったティナは、膝についた砂を叩き落しながら静かに首を横に振る。

そして顔を上げたティナと再び目が合って、ダンは思わず息を呑んだ。
先程の罪悪感は何処へ行ったのかと問いたいほど、こちらを向いて微笑んでくれているティナをみて嬉しい気持ちが込み上げてくるのだった。

「ねぇ、ダン。ずっと気になってたんだけど、」

「なんだい?ハニー?」

じっと丸い瞳で見つめてくるティナに、ダンはニッと口角を吊り上げて尋ねた。

あのね、とぴょこんと小さくツインテールを揺らしながら、ティナは小首を傾げる。

「私、いつになったら子猫じゃなくなるの?」

「……へ?」

至って真剣な眼差しで、ティナはそう言う。
もちろん、そんな質問は想定外だったダンは、拍子抜けしたような声をだして、唖然として肩を落としていた。

そうこうしていたら、だって出会った当初からずっと"子"じゃない、とティナはさも当然のように話を進めていく。どうやら成長しないのが不満らしい。

「猫ちゃんじゃ可愛くないだろ?」

「でも、いつまでも"子猫ちゃん"だなんて……」

不満だわとでも言いた気な顔をして、ティナはうーんと両手を組んで黙り込む。

呼び方が気に食わないのだろうか?彼女の意図がよくわからずに、ダンは困惑している様子だ。
終いには、猫と言うより犬っぽいから子犬ちゃんの方がよかったのだろうかと、全くズレた方へと考えている。

そんな事を試行錯誤しているとはつゆしらず、ティナはティナなりに答えをだしたようで、俯き気味だった顔を上げダンの名前を少し興奮気味に呼んだ。

「じゃあさ、赤ちゃん産んだら子猫じゃなくなるのかな!?」

「!?」

またもや全く検討もついていない方向へ行ってしまったようだと、ダンは目を丸くした。
親になれば子じゃなくなる。そう言うニュアンスで彼女がこんな突拍子もないことを言っているのは間違いないようだ。

このままじゃ彼女のペースで乱れてしまうと、ダンはこの流れを区切るため、ゴホンとわざとらしい咳ばらいをしてみせた。そしていつものように軽い調子で、ヘラヘラと笑ってみせたのである。

「あー……っと、俺とティナの子供ならきっと可愛い子だろうな」

「ダンの……子供?」

ダンの冗談のようなその言葉を流すことなく、ティナはうーんと考える。
しばらく考えて、ふふっ、と笑いを零す様子を見ると、彼の言っている子供が安易に想像できたのだろう。
またティナのペースに戻されるのはわかっていた。それでも、こんなに楽しそうに笑っていたら、ダンも聞かざる終えなくなってしまう。

「な、絶対可愛いだろ?」

「絶対男の子なら女泣かせになるね!」

「おいおい、ティナは俺の事そんな風に……」

「でも、子供がいて、牧場もあって、隣にダンがいたら、」

そう言って、ティナは後ろで手を組む。指先は何か持て余したかのように、ゆっくり自分の指を何度もからめとったり解いたり落ち着きがない。

上目遣いで見つめるティナの瞳。恥ずかしそうにふわりと微笑んだ口元。
どうしてもそれらから目が離せずに、ダンは息を呑む。

「悪く、ないね」

へへっと笑いながら、ティナは頬を掻いた。
その言葉に、仕種に、彼女の全てに何故か胸がきゅっと縮まる思いがする。

自然と伸びた手は、ティナに向かって真っ直ぐ伸びていく。

もう少し、指先が触れそうなその距離で、ティナがそういえばとニコリと笑う。ぴたりと止まった自分の腕をどうこうするわけでもなく、ダンはなに?と優しく問い掛けた。

「赤ちゃんって、どうやったらできるの?」

まるで幼子のようなその質問に、ダンは文字通り固まったのだった。



(……!)(ごめん、流石に今のは、冗談……)(……)(聞いてないや)















ティナは色々確信犯だといい

ちなみに赤ちゃんは
結婚して20日で
やってくるよね(^q^)



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