牧場物語2 | ナノ




「グレイさんも雨宿りですか?」

急な雨に見舞われた昼下がり。
月山の洞窟で雨をしのごうと駆け込んだクレアだったが、どうやら先客が居たようだ。
彼もまた雨宿りだろうかと声を掛けるが、いつもの如し何も言わないグレイ。
これが彼の当たり前なのだが、実に調子が狂うなとクレアはおもわず苦笑いを浮かべた。

ザァザァと降り続ける雨はまだ止む気配はない。
すっかりずぶ濡れになった体をタオルで拭いながら、この気まずい空気をどうやってやり過ごそうかと頭を悩ませる。

「いきなりでしたね雨。風邪ひいちゃいそう」

ははっ、と茶目っ気たっぷりに笑ってみるものの、彼は無言で洞窟から見える降り止まない雨を睨み続けるだけ。
元々彼からはよく思われていないから仕方ないかと思ったクレアだったが、二人きりになったのは初めてだし、なんとか打ち解けれないだろうかと少し期待を抱いていたのだ。

(ダメだ……!既に心折れそう)

相変わらず黙りのグレイに、クレアは心の中でそう悲痛に叫んだ。
二人の耳に入るのは、悲しいかな雨のBGMのみ。
返事の返ってこない会話に心が折れたクレアは、気まずさを隠すかのように、既に水分がなくなりかけの髪をタオルで拭うだけだった。

「牧場の動物は小屋に入れてるのか」

「ああ、はい。何と無く雨降りそうだなと思って、今日は皆小屋に入れてます……!?」

急な問いかけに何の疑問も持たず返答したクレアだったが、言い終わる頃にグレイに話しかけられたことに気が付いた。
慌ててグレイに顔を向けたが、彼の視線は変わらず雨。しかも表情も無表情のままなので、今話しかけられたのはもしかして幻だろうかとクレアは不思議な感覚に陥った。

「グレイさんのところから買わせて頂いた子牛、この間大きくなってミルク出してくれるようになったんです。私すっごく嬉しくって一週間は毎日自分で飲んじゃって」

試しに話を切り出すが、特にグレイからの相槌や返事は何もない。
ただ、ほんの少しだがグレイの表情が柔らかくなった気がした。
その事に感動を覚えつつ、クレアは続けて話を切り出す。

「あと、頂いた子馬も元気に走り回ってるんですよ。最近懐いてくれたのか、私の姿が見えると駆け寄ってきてくれて……すごく可愛いんです」

この話には、ついにグレイは視線をクレアへと向けた。
グレイと視線が合ったのは彼女の記憶の中じゃ最初に子馬を預ける時睨まれた時のみ。
それからはどんなに挨拶しても無視で、ましてや視線が交じる事などありえなかったのだ。
苦手意識もあったグレイと二人で話をして視線が合うなんてと、クレアは思わず体を強張らせてしまう。

「す、すみません。調子に乗って話しすぎました……」

堪らず口から出た言葉は何故か謝罪の言葉だった。彼の突き刺さるような視線が痛くて堪らなくなったのだ。

「雨」

「はい……?」

「止むぞ」

そう言ってグレイはまた外へと目を向ける。つられてクレアも視線を向ければ、確かにグレイの言うように雨は弱くなっていた。

それからほんの数分また沈黙が続くと、本当に雨は止んでいて。独特の雨降り後の香りがツンと鼻に突き刺さる。

何も言わずに外に出たグレイ。呆気にとられて動けないクレアはただ彼の背中をジッと見つめるだ。
しかしその背中は洞窟の出入り口から一向に動かない。不思議に思ったクレアは思わず小首を傾げてしまう。

すると、振り向いたグレイと再び目が合った。たったそれだけの事なのに、クレアの心臓は大きく跳ね上がる。

「帰るぞ」

「はっ、はい!!」

その一言に慌てて彼の横に駆け寄れば、グレイはゆっくりと歩き出した。
一体、この人は何なのだろうか。変わり者だとは思っていたが、全く掴めない。

(本当……変な人)

縮んだのか、全くの平行線なのか分からない彼との距離感に戸惑うクレア。
緊張のあまり心臓に悪い人だなと失礼なことを思いながら、クレアは黙ってグレイと山道を歩いた。

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