ハーベスト | ナノ



可愛らしい青色の招待状を片手に、僕は牧場へと向かっていた。

おじちゃんへ
せいやさいぼくのおうちにきてください
はる

もう何度読み返したかわからない一生懸命書かれた招待状。一緒にぼくの似顔絵も描かれていて、つい顔が緩んでしまう。
彼はどうしてこうも僕の心を掴むのが上手いのだろうか。これを受け取ってからと言うもの、あのジェフさんが戸惑うくらい僕はあからさまに上機嫌だった。(らしい)

あっ、という間に到着した牧場は、冬というのもありいつもの賑やかさはまるでない。
作物のない畑はとても広く、この一面を一見か弱く見える彼女が作物や花でいっぱいにしてるのかと思うと、ジンと胸が熱くなった。

やはり、クレアは凄い。側からみれば逞しい女性だろうが、僕は彼女の強さの裏に隠している弱さも知っている。
しかし、それを逆手に取って僕は彼女に――
ダメだ。今日は感傷的になる日じゃない。
僕は再び招待状を眺め、気力を取り戻す。
この向こうに2人が待っているんだ。高鳴る胸を抑えながら、僕は控えめに扉を叩いた。

「おじちゃん!!!」

「おっと……!こんばんは、ハル君」

勢いよく開かれたドアから一目散に飛び出したハル君を受け止めつつ、僕は彼の頭を優しく撫でる。
温かいな。物理的な事だけじゃなく、このやりとりが凄く温かく愛おしい。

「ハルったらずっと首を長くして待ってたのよ。寒いでしょ?中にどうぞ」

扉の向こうには、美味しそうな香りを漂わせる食事が僕を出迎えてくれた。
ハル君に手を引かれ、促されるがまま着席する。向かいの席で満足げに微笑む顔が愛らしくて、思わずこちらも顔が綻ぶのを感じた。

「……シチュー」

「ママのシチューすっごくおいしいんだよ!」

「……そう、だね」

僕の、好きな料理だ。
牧場の牧場がたっぷり詰まったシチューが大好きで、未だにこのシチューを超えるものに出会えたことはない。
またこうして食べれる日が来るなんて、夢にも思わなかった。
――こうして、彼女の家で何気ない日常を送る日が来るとは思わなかった。

「さあ、冷めないうちに食べましょう」

「いただきまーす」

「いただきます」

家族……と過ごす星夜祭はいつぶりだろうか?
もう遠い昔のことだが、今でも目を瞑れば思い出せる、暖かな記憶。
父がいて、母がいて、暖かな料理に、きらめく星空。

あの幸せな光景が、今目の前に広がる光景とダブり胸がじんわりと暖かみを帯びていた。


* * *


「お星さまきらきらしてるね」

「ああ、すごく綺麗だ」

この自然豊かなミネラルタウンでは年中星が綺麗に見える。
だが、今日は星夜星というだけあってそれがより一層際立つ日だった。
空を見上げればこんなに美しい光景が見れると言うことをどうやら僕は忘れていたらしい。隣で感嘆の声を上げる素直な少年とともに、僕もまた素直に声が溢れていた。

「ユウくんが言ってた。お星さまのなかにおとうさんとおかあさんがいて、ユウくんを見てるんだって」

「そうか……」

彼の頭を撫でれば、ハルくんは空を見上げたまま悲しげに微笑んだ。
以前、エリィが言っていた。子供は思った以上に敏感でよく分かっている、と。
咄嗟に彼女の言葉が浮かんだのは、イヤな予感がしたからだ。
ハッとクレアを見れば、彼女もまた僕を見つめていた。
――しまっ……

「ボクはママもおじちゃんもだいすきだよ」

僕は……僕らは近づき過ぎたのかもしれない。
彼が何を感じて、どうしてその言葉を告げたのかは分からない。もし彼が、不安定ないつ消えるか分からないこの状況を不安に思ってるとしたら?
クレアがこれ以上踏み込んでほしくないとしたら?
全て僕のエゴだとしたら?

「だから、貴方は貴方の人生を歩んで?」

「ドクターはこのままでいいと思ってるでしょう?」

「……でもね、会いたいなぁ」


僕は卑怯な男のまま、何も変わってないのかもしれない。

「僕も、君と……君のママが……大好きだよ」

身勝手で、未練たらしい男のまま、何も変わってないのかもしれない。

「君達と過ごせなかった時間を取り戻せるとは思ってない」

けれども、もうこの想いを止めることはできやしなかった。

「だから、これから先の人生、ハル君と、クレアと……一緒に歩ませてください」


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