間もなく、故郷に到着する時間だ。
荷物を手に持ち、忘れ物がないか確認する。
緊張……するな
久々の故郷に足を踏み入れるのをためらってる自分がそこには居た。
「もうすぐ着きますよ」
「ああ、どうも」
船員に頭を下げ、深呼吸をする。
――いよいよだ。
向き合わなくてはならない。現実と。
久々の診療所は何も変わってはいなかった。
ただ一つだけ、デスクに僕の仏頂面の写真が飾ってあったこと以外は。
「もっといい写真はなかったのかい」
「先生の写真は全部そんな顔ですもの」
それもそうかと僕は納得した。
ただでさえ仏頂面な上、写真は苦手だ。きっとこれだって、少ない僕の写真の中ではベストだったのだろう。
いや、でも確か笑ってる写真もあったはず――そう言おうとして、やめた。
その笑ってる写真は、彼女と写っていたやつだ。
折角考えない様にしていたのに。自ら踏んだ地雷に苦い顔を浮かべる。
そう言えば、先程もミネラルビーチに彼女の姿はなかった。
当たり前だが、安堵と残念な感情がぶつかり続けている。
遅かれ早かれ、僕は彼女に会うはずだ。この狭い町にいる限り。
「エリィお姉ちゃん!」
「……あ、あらっ」
慌てて診察室から出ていくエリィを横目に、僕は白衣に袖を通す。
ユウ君だろうか。先程見たときは随分しっかりした様子だったが、やはり姉に甘える所は変わってはいないのだろう。
「あら、ここ血が出てる」
「平気だよ。ちょっとコケただけ」
以前どこかで聞いたことがあるようなやり取りに、胸がズキンと痛んだ。
分かってはいたが、どうも町に帰ってきてから心が落ち着かない。
「どうかしたかい?」
「あっ、せ、せんせい……」
「エリィお姉ちゃん」
どくん、どくん。
心臓が酷く高鳴る。
「だあれ?このおじちゃん」
後先考えずにやっちまった\(^o^)/
続きます。
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