青春短し、恋せよ音也 | ナノ


『い、一ノ瀬君いますか…?』

「名字じゃねーか。トキヤだなっ、ちょっと待ってろよ!」

『あ、翔君ありがとう…!』



Aクラスの私が、休憩時間になると決まって来る場所がSクラス。なぜなら、私のパートナーになってくれた一ノ瀬トキヤ君がSクラスだからです。一ノ瀬君とパートナーになるのを勧めてくれたのが林檎ちゃん。一ノ瀬君も日向先生から言われてたみたいで、あっさりOKしてくれた。私はどちらかと言うと、目立たない、クラスの端っこにいるタイプです。こんな私がSクラスの、しかも一ノ瀬君と組むとなった時は、大半の女子から非難の声がありましたが、それも日向先生と林檎ちゃんのおかげで制圧され、最初のうちだけに止まりました。



「名前、どうしたのですか?」

『あ、一ノ瀬君。ごめんなさい、せっかくの休憩時間に、』

「いえ。大丈夫ですよ。それで、何か私に用事が?」



ふわり、と笑ってくれる一ノ瀬君。とても素敵です。最初こそは、一ノ瀬君の歌声も知らなかった私ですが、初めて聞いた時に、こんなに上手な人がいるんだと、びっくりしたのを覚えています。その頃の機械の様に歌う一ノ瀬君の面影は今は無く、ずっとずっとレベルアップをしています。そんな彼の歌声を聞いていると、勝手にメロディーが浮かんでくる訳でして。



『えっと、あのね。新しい楽譜ができたから、その修正とか、歌詞を一ノ瀬君に確認してもらいたくて。あ、歌詞は仮だから、変えてもらっても、全然いいです…っ』

「あなたは…。もっと胸を張っていいと、私はいつも言っていることをお忘れですか?」

『は、ひ…』

「性格上、難しいとは思いますが。あなたの作る曲はとても魅力的ですし素敵なんですから」

『…っ!ありがとうっ』



ふ、と笑った一ノ瀬君の手が頭に優しく乗る。最初こそは恥ずかしいと思っていましたが、今はなんとなく、これが落ち着きます。新しい楽譜も渡したことだし、もうクラスに帰ろうとした時、一ノ瀬君から言葉が出た。



「そういえば、音也に返信していないでしょう」

『(ギクッ!)え、なんで…』

「なぜ知っているか、ですか?もちろん、同じ部屋だからですよ」



一ノ瀬君の言う音也とは、私と同じAクラスの一十木君。一ノ瀬君を通して仲良くしていただいているんですが、



『あのあの!別に一十木君が嫌いとかそういうわけでは…っ』

「それは、音也に言ってください」

『うっ、はい…』

「はあ、何を怖がっているのか大体想像はつきますが、誰かをすぐに嫌うような人柄ではありません」

『う、うん…』

「何より、私に泣きついてきて面倒くさいので早く返信してあげてください」



あ、そっちが本音なんだ一ノ瀬君。…今日、帰ったら一十木君に返信しよう。どんなメッセージ送ったらいいんだろう…?悩み事がひとつ増えた結果、この後の授業はほぼ頭に入りませんでした。



(トキヤトキヤトキヤー!見て見て見てっ!)
(全く、煩いですよ。少しは静かに、)
(名字から返信きたよーっ!)
(…、そうですか)
(さっそく返信ーっと!)




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