▼08
放課後、一ノ瀬さんが音楽教室に来てくれた。私は昨日、帰りながら楽譜を見て、家に着いてからはピアノで弾いてみてメロディーを覚え、今日の朝にフルートで吹いた。夜に家でやるのは迷惑だからね。
『一ノ瀬さん、一回録らずにしてみますか?』
「そうですね。ではお願いします」
『はい!』
私はフルートを構え、シの音を出して確かめる。よし、大丈夫。私は前奏を吹き始めた。まだ一ノ瀬さんの歌を聞いたことがないから、私は私の曲しか吹けない。だけど、今から合わせて、一ノ瀬さんの曲にしていくことが昨日から楽しみだった。そして一ノ瀬さんが歌う。すごく綺麗な歌声だった。吹かないといけないのに、全身に鳥肌が立つ。
『すっごいです!一ノ瀬さん本当にすごいです!』
「ありがとうございます。あなたも素敵でしたよ。やはり、あなたに頼んで正解でした」
『えへへ。嬉しいです!録音なしでもう一度してみてもいいですか?』
「私は構いませんが…」
『やったあ!お願いします!』
「はい」
ふ、と笑う一ノ瀬さん。心臓が煩い。でも楽しい。一ノ瀬さんと作れることが、すごく嬉しい。
「…本当に、楽しそうに吹きますね」
『楽しいですから』
「フルートが好きなんですね」
『はい。…大好きです』
勝手に頬が緩む。誉められて、本当に嬉しいから。しかも大好きな一ノ瀬さんに。
ああ、フルートも一ノ瀬さんも大好きです!!
「っ〜…!」
『え?一ノ瀬さん?』
「名前、あなた今…」
『?』
私が何かしたんだろうか。まあ教室には私と一ノ瀬さんしか居ないからね。当たり前か。一ノ瀬さん、顔真っ赤。なんか可愛いなあ。
「名前…。自分が言ったことに気づいてますか?」
『え、なんですか?』
「はあ…。あなた今、私のことを好きと言いましたよ」
『へ……』
私は固まる。いやもう固まらざるを得ないよこれは。わ、わわわわ、私が、一ノ瀬さんを、好きって?え、いつ言った?いつ言ったの?……そういえば心の中で…「ああ、フルートも一ノ瀬さんも大好きです!!」って。
『!!こここ、声に出てました!?』
「ええ、ばっちりと。それはもうはっきり」
『んきゃああああ!』
あああああああ、私恥ずかしい!こんな、こんな自分でも意識しない告白なんて…!どんだけ一ノ瀬さんが好きなんだ私!
『あの、一ノ瀬さ…』
「なんですか?」
『えっと…、今のは「忘れろなどと言ったら、私は今にでもあなたを犯しますよ」おか…!?』
「私は少し苛立っているんです」
『す、すすす、すみません!!』
やっぱり私なんかが告白するのは腹立たしいことで…。失恋、かな。でも、今泣くのは…!
「勘違いしていそうですので言いますが、私が腹を立てているのは自分自身です」
『え?』
「私が言おうとしていたことを、さらりと君に言われてしまいましたから」
『うん?』
「分かりませんか?なら…」
「キスで教えてあげましょう」
そう言った一ノ瀬さんに、押し倒されるまで、あと3秒。
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