ペンギン恋愛成就 | ナノ
▼05

昨日の朝は、一ノ瀬さんから名前呼びという、素敵なプレゼントを貰ってしまった鳥明名前です。今日も昨日と同じ時間に出たけれど、一ノ瀬さんと出会うことはなかった。






『うん、しょっと…』






早乙女学園の方角にある窓を明けて、朝特有の涼しい風を感じる。一ノ瀬さんは居ないけど…いい気分。






『名前…って、呼ばれちゃった!』






きゃはー!なんて思いながら机に顔を伏せる。というか押し付ける。嬉しすぎるでしょう!






『……トキヤ、くん』






どくん、と胸が鳴る。目をぎゅっとつむって、口もぎゅっと閉じる。でも口角が上がるのは抑えきれない。ていうか、もういろいろと抑えきれない。






『今日は何を吹こうかなー』






まあ、なんでもいいやと、私は即興で適当に吹く。これがすごく楽しい。フルートの音が好き。長い形が好き。昔見た女の人みたいに、指までは綺麗に見えないとは思うけど、憧れてた音を出せるのは嬉しい。






「やはりあなたでしたか…」

『わきゃっ!いい、一ノ瀬さん!?』

「昨日の朝ぶりですね」

『は、はいっ。えっと!その前に!どどど、どうしてここの音楽室に?』

「え、あなた知らないんですか…?」

『?』






何をだろう。ここは海中高校の音楽教室だし。ここだけだからね、誰も来なくて防音なの。






「この教室は、早乙女学園からも通路が繋がっています。元々は早乙女学園の教室ですから」

『え?そうなんですか?わあ、知らなかった!』

「この教室には毎日?」

『いえ。早起きした時だけにです』

「そうですか。実を言うと、私はランニングをしている時、あなたのフルートが聞こえていたんです」

『そ、そそそそうなんですかあ!?』

「ええ。だからぶつかった時、本当に驚きましたよ。もしかしたら、聞こえたのはあなたのフルートかもしれないと。そしたら……本当にそうでした」

『っ…!』






一ノ瀬さんの指が…!私の頬に触れてる…!






「あなたの音色は、本当に素敵です」

『ひっ…』






耳元まで顔を近づけてきた一ノ瀬さんに、私は体が熱くなる。そのまま離れていくと思いきや、頬に少し冷たく、柔らかい何かが触れた。






『!?』

「では…」






微笑んだ一ノ瀬さんを、呆然と見る。教室には、顔も耳も真っ赤な私が取り残された。