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昨日の夕方、あんなことがあってから名前は上の空だった。
「おーい名前。名前さん?」
『はあ…』
駄目だ、俺の声も聞こえてない。俺も溜め息を吐いた。随分前、名前は俺に言ったんだ。「早乙女学園に素敵な人がいる」って。それ聞いた瞬間マジかよって思った。今まで男で隣に居られたのは俺なのに、なんでだよって。そして昨日会ったのがそいつだった。
「名前ったらどうしたの?」
「うん?いや、なんか俺に惚れたみたいぐほあっ」
『変なことを言おうとするから…』
「あら、一ノ瀬さんって人のこと?」
そいつの名前が出た瞬間、名前の肩がぴくりと跳ねた。俺の眉毛も反応したらしい。あの後、名前と俺の制服を見て、向かい側にある学校だと気づいたあいつは、「ああ、だから見えていたんですね」と名前に言った。
「向かいの…海中校の生徒ですか。でも、なぜそんな朝早くに学校に居るんです?」
『あ、あのあの!!私、朝早く学校に来て、音楽教室でフルートの練習してて!…それで…っ…えっと…』
「ああ、窓から…なるほど。では、なぜ私の名前を?」
『そ、そちらの先生が、名前…、呼んでるのを聞いて…』
「そうでしたか。ちなみに、あなたの他に、朝フルートを吹いている方はいらっしゃいますか?」
『?いえ…いないと、思います』
「そうですか…。ああ、もうこんな時間でしたか。すみません、私はこれから用事があるので…。あなたの名前をお聞きしても?」
『うえあ!?と、鳥明名前です!』
「鳥明名前…。では、またお会いしましょう」
ぬわぁああにが「また会いましょう」だ!絶対に会わせてやるもんか!完璧に俺を無視するし!あいつ嫌いだっ。
『はあ…』
「ああ!俺の名前が…!」
「あんたのではなかったでしょ」
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