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お母さんめ!放課後がうっちーに潰されて悲しんでんのに、なんで大根頼むのっ!
『はあ…今日は一ノ瀬さん見られなかった、明日の朝日なんて拝めないよ』
「だーかーらー!」
『いらん』
「…俺まだ何も言ってない」
隣を歩くスポーツマンは谷山咲月。家がお隣り同士のクラスメイト。小学生の頃、咲月の名前を見て「いい名前だね」って言った日から、ものすごいアピールを受けている。
「なーなー、一ノ瀬ってどんな奴?俺よりかっけーの?」
『遥かにカッコイイよ』
隣でしょぼん、とする咲月を横目に、赤みがかかった空を見た。ああ、一ノ瀬さん今何してるのかな…。名前を知ったのはつい最近。早乙女学園の先生がそう呼んでいるのを聞いただけ。
「ぶーぶー。俺だって名前のこと大好きだよ!だから俺にしよっ」
『断る』
「おう…今俺の心のダメージやばい」
はあ、と溜め息吐き、俯いていた顔を上げた時、私は誰かにぶつかってしまった。
『わぷっ!』
「わあああああ名前!大丈夫かっ」
『平気だから。うるさい咲月。あの、私よそ見してて…すみませ、!』
「いえ、私の方こそすみません。お怪我はありませんか?」
『い……』
「「 い? 」」
一ノ瀬さんんんんんん!?なんでここにっ!いやほら、私の幻覚とかかもしれないから!頬抓って…ほーら痛い。あれ?痛い?うん、痛い。えええ!?ちょっ、待ってよ!これは頬バチンってするしか…!
――――バチン!!
「!?」
「名前!?」
『い、いひゃい…』
「(きゅん。呂律回らない名前かわいい!)」
「大丈夫ですか?まあ、自業自得ですが…」
『い、い、一ノ瀬さん!』
「…なぜ私の名前を?」
「一ノ瀬だあ!?」
『あの、私…えっと。ず、ずっと話してみたくて!その…毎朝早くランニングしてて…す、すごいなって!…思ってましたっ』
一ノ瀬さんの両手を掴み、ぎゅっと握る。私は恥ずかしさのあまり目をつむってしまった。これが初めての一ノ瀬さんとの対面だった。
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