ペンギン恋愛成就 | ナノ
▼02

お母さんめ!放課後がうっちーに潰されて悲しんでんのに、なんで大根頼むのっ!






『はあ…今日は一ノ瀬さん見られなかった、明日の朝日なんて拝めないよ』

「だーかーらー!」
『いらん』



「…俺まだ何も言ってない」






隣を歩くスポーツマンは谷山咲月。家がお隣り同士のクラスメイト。小学生の頃、咲月の名前を見て「いい名前だね」って言った日から、ものすごいアピールを受けている。






「なーなー、一ノ瀬ってどんな奴?俺よりかっけーの?」

『遥かにカッコイイよ』






隣でしょぼん、とする咲月を横目に、赤みがかかった空を見た。ああ、一ノ瀬さん今何してるのかな…。名前を知ったのはつい最近。早乙女学園の先生がそう呼んでいるのを聞いただけ。






「ぶーぶー。俺だって名前のこと大好きだよ!だから俺にしよっ」

『断る』

「おう…今俺の心のダメージやばい」






はあ、と溜め息吐き、俯いていた顔を上げた時、私は誰かにぶつかってしまった。






『わぷっ!』

「わあああああ名前!大丈夫かっ」

『平気だから。うるさい咲月。あの、私よそ見してて…すみませ、!』

「いえ、私の方こそすみません。お怪我はありませんか?」

『い……』

「「 い? 」」






一ノ瀬さんんんんんん!?なんでここにっ!いやほら、私の幻覚とかかもしれないから!頬抓って…ほーら痛い。あれ?痛い?うん、痛い。えええ!?ちょっ、待ってよ!これは頬バチンってするしか…!





――――バチン!!




「!?」

「名前!?」

『い、いひゃい…』

「(きゅん。呂律回らない名前かわいい!)」

「大丈夫ですか?まあ、自業自得ですが…」

『い、い、一ノ瀬さん!』

「…なぜ私の名前を?」

「一ノ瀬だあ!?」

『あの、私…えっと。ず、ずっと話してみたくて!その…毎朝早くランニングしてて…す、すごいなって!…思ってましたっ』






一ノ瀬さんの両手を掴み、ぎゅっと握る。私は恥ずかしさのあまり目をつむってしまった。これが初めての一ノ瀬さんとの対面だった。