▼09
『嘘、みたいです』
「何がです?」
昨日あれから、一ノ瀬さんから沢山のキスをされ、付き合うことになったけど。夢を見ているみたいで怖いよね、実際。でも家の前では、こうして一ノ瀬さんが立ってくれていた。
『一ノ瀬さん、あの…本当に無理しなくていいんですよ?』
「無理なんてしていませんよ。これは私が好きでしているのですから。それに…」
『?』
一瞬のうちに触れて、唇にはまだ、少しの余韻がある。触れるだけのキスでも、私を真っ赤にするには充分すぎるものだった。
「学校も違う分、私はあなたと一緒に居たいですから」
『わ、私も!…です。…学校、違うからっ、そんなお昼とか一緒に食べられないし…。その、移動教室で出会うこともないですから…。えっと…お、お願いします』
最後は恥ずかしくなり、小さい声になった挙げ句、意味の分からない「お願いします」が出てしまった。なんだこれ。グダグダじゃないか。恥ずかしすぎる…!
「ふふ。では行きましょうか」
『は、はい!』
一ノ瀬さんが繋いでくれる右手がすごく熱い。ていうか全神経が右側にきた感じする。う、わ…恋人繋ぎ!き、緊張する!そして、緊張しすぎた私は、いつの間にか手を強く握ってしまったらしく、一ノ瀬さんに笑われてしまった。
『ああ…、一ノ瀬さんにお恥ずかしいところを…』
「見ていて面白いですよ」
『嬉しくありません!』
また笑う一ノ瀬さん。どんだけ笑われてるの私。ていうか笑いすぎだよ。一ノ瀬さんのばか。でも好き。
『一ノ瀬さん、』
「はい」
『大好き、です。すっごくすっごく』
「!…君は本当に、可愛い人ですね」
『へ!?か、かわかわ…!?』
「駄目ですね。我慢すると、決めたばかりなのに…」
『え、一ノ瀬さん…!……う、ん』
「ん……っ」
誰も通らない、朝の早い通学路。一ノ瀬さんの男らしい綺麗な手が、後頭部に回る。もう片方は私の腰を支えてくれている。長いキスが終われば、一ノ瀬さんが私の首筋に顔を埋めた。
「愛していますよ、名前。ん……」
『わっ!?』
鎖骨辺りにチクッとした痛みが走る。顔を上げた一ノ瀬さんを見て、私はまた真っ赤になった。
自分を優しく見つめる瞳を見たペンギンは…、
世界一の幸せ者である。
ペンギンは夢を見る。
「いつかあの空を飛びたい」と
ペンギンは夢を見る
「地平線の向こうへ行きたい」と
例え無理だったとしても、
夢を見られずにはいられない。
だけどそれは、
決して無意味なことじゃない
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