シリーズ | ナノ


「お嬢様、どうかなさいましたか?」

『あ……』






執事の真斗がピアノのあるアトリエに来た。いや、私を探しに来た。






『ピアノ、お母さんがよく弾いてくれたなって』

「そうですか…」






ポロン、と音を鳴らす。真斗が近くまでやって来た。すると、真斗の長い綺麗な指がピアノを触る。






『そういえば、弾けるんだよね?』

「少し、ですが…」

『本当?弾いてよ真斗』

「分かりました」






ピアノを弾いてもらう。真斗が椅子に腰をかけ、私はピアノの側に立って覗き込む。真斗の指が鍵盤を滑る。相変わらずすごいな、なんて思う。真斗は本番なのに、間違うこともなく弾き終えた。私は拍手をする。






『すごいね、真斗!感動したっ』

「ありがとうございます」

『たまに弾いてもらってもいい?』

「お嬢様がおっしゃるなら」






ふわりと笑う真斗に、少しドキリとした。






「では、戻りましょ…?」

『?』






真斗が立ち上がりかけて固まった。なんだろうと思い、後ろを見る。そこには、カメラマンとディレクターと、カンペを持った監督が…うん?カンペ?そこには、










真斗君、抱きしめて告白






はああああああああ!?なんでそうなる!?今さ、台本通りだったじゃないか!なんで台本から離れたストーリーにしようとするの監督!でも、真斗は真面目だからしないよね。






「その……」






ああああああ!真面目さが裏目に出てるうううう!!






『ちょっと、まっ…!』

「名前…」






後ろに下がる。けれど、馴れない高いヒールで躓いた。倒れそうな時に、前から真斗の手が伸びてくる。腕を掴まれ、そのまま引かれて、気づけば真斗の腕の中だった。






『まさ、』

「名前、今言う。……好きだ」

『!?』






私の顔がだんだんと熱をおびていく。真斗は何を思ったのか、私の頭に唇を押し付けた。またそこが熱くなる。






「名前…」






顎に手をかけられ、上を向かされた。そこには、頬が少し赤くなった真斗の顔が。






『!?』

「……」






ゆっくりと近づいてくる真斗の綺麗な顔。き、キスはしなくていいんじゃないかな真斗君!?






『か、かかかか、監督うううう!』






唇が触れるギリギリ。ようやく振り絞って出た言葉は、それだった。














「うーん。ギリギリだったか」
「撮り直しですか?」
「え、使うけど?」


「「「「 マジでか 」」」」




※その後、編集して放送した回の視聴率がやばかったです。それと、名字さんが監督と口をきかなくなりました。監督がいじけてたけど自業自得だと思います。(スタッフ一同)