『ねえ、そろそろ部屋に帰りたくなったんじゃない?』
「どんだけ帰らせたいんだよ」
バシッ、とクッションを翔君に投げられてしまった。うう…痛い。無言で頭を摩っていたら、なっちゃんが大丈夫ですかって撫でてくれた。ああもう、優しいなっちゃん。そして右腕にぬいぐるみを抱く辺りが可愛い。果てしなく可愛い。
『そして翔君も可愛いね』
「ぶっとばすぞ」
私のハートのクッションを抱きかかえる姿は、どこからどう見たって可愛いとしか言いようがない。そんな翔君を抱きしめてしまいたいわ。
「おまっ…!」
『あ、』
無意識に抱きしめてしまいました。でも仕方ないよね。皆も本当は抱きつきたいはずなんだ。翔君はずっと離せって言うけど、私の部屋なんだから私がルールだ!なんて思いながら、あまりにも真っ赤になりすぎていたので離してあげた。……いや、離そうとした。
「二人とも可愛いです!」
「那月ぃいいいいいい!!」
『ちょ、翔君うるさいよ』
一旦離れようと思っていた私は、なっちゃんの熱い包囲によって元通り。しかも前のめりに倒れたから、翔君の胸板とご対面。いい香りするなとか、別に思ってないやい!
「あ、ちょっと那月ー」
「音也君もしますかあ?」
「うん!」
『やめい』
音也が両手を広げているのを言葉で制する。えー、とかなんとか言ってるけど知らん。なっちゃんは未だにぎゅうぎゅうしてくる。でも、翔君が押し返していたおかげで、少しの隙間ができた。なんか抜けられそうだなあ。
『あ、抜けた』
「名前!何一人だけんぎゃあああああああ!?」
「翔ちゃん翔ちゃん!」
『頑張って!』
別に抱きつかれるのが嫌な訳ではないし、ましてやなっちゃんが嫌いということではないけど…。力がね。うん、苦しいんだ。少しよろよろしながら音也が座る所へ。隣に座ろうとしたら、ぐっと腕を引っ張られた。ぐら、と傾く体。次にくる衝撃に目をつむった。
―――ぽふん
……ぽふん?しかもあんまり痛くないし…。目を開ければ、私の腕ではない腕がお腹にある。見れば音也だった。音也があぐらで座る足の間にはまったらしい。
『何してんの』
「だって…。俺だけ仲間外れだったから…」
肩に頭を押し付けてくる音也。いや別に胸きゅんとかしてないから。可愛いわんこめとか思ってないからっ。
「音也君、良いですね。僕も今度してみようかなー。名前ちゃんに」
『名指しなんだ』
「つっこむところはそこなんか!」
翔君がきゃんきゃん言ってる。ここにもわんこが…。もし翔君が犬だったらチワワだチワワ。怒るだろうから言わないけどね。そんなこんなで過ごしていたら、チャイムが鳴った。音也は私をぎゅうぎゅうするだけで、出る気は無いらしい。すると、翔君が待ってましたと言わんばかりに、なっちゃんの腕から抜け出した。まあ、誰が来るかは予想がついて…。
「名前ちゃん!」
「遊びに来たよー、って。何やってんのよあんた」
『まじでか』
来たのは春ちゃんと友ちゃんだった。え、そんなに人数入れないよ?
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