レンに体をホールドされてから数分。無言が痛い、とても痛い。何か話してくれ…!なんて思っていたら、レンの声が聞こえた。
「レディは…、認めて欲しい人に、どうしても認められなかったら……どうする?」
『え?』
「どれだけ頑張っても、どれだけ成果を見せても、自分は…。自分だけは、認めてもらえない」
レンの腕に力が入る。お腹が痛い。けれど、レンの声が痛いくらいに悲しかったから、レンのことなんだなと、私は理解してしまった。
『レン…』
「自分がどんなに欲しくても手に入らない。それを持っている奴は、簡単にそれを捨てようとする…!俺はそれが許せないっ…」
レンの声が震える。泣いてるのだろうか。あのレンが?少し(いや大分)失礼だけど、想像できない。
「……」
『私は…、』
「……」
『どうだろ。私はそんなこと経験したことも無いから。レンや真斗君みたいに、家が財閥じゃないし。ただ、悲しい、だろうね』
「………」
レンは無言。でも手を離さないのは、私の言葉を聞いてくれるってことなのかな。はい、名前ちゃんはそう受け取るよー。
『でもこれは、当事者だった場合。私からしたら、レンも真斗君も小さい子供みたい』
「なんだよそれ…」
『お、怒らないでね?』
少し低くなったレンの声に、私の肩が跳ねた。怒っているのかと思ったら、手はそのまま。むしろもっと強くなった。私このまま死ねそうだよ。原因はお腹の圧迫のしすぎだね。そんなことを思って、私は口を開いた。
『私が言いたいのは……、レンがすごく優しいことも、才能に溢れてることも、本当は泣き虫なことも知ってるってこと』
「…おかしいな、君の前で泣いた覚えがないんだけど」
『今、泣いてる』
レンの髪を静かに撫でる。別に私は、レンがたらしでもナンパ男でも、嫌いになることは無いと思う。
「……名前には、俺が必要かい?」
『何言ってんの?必要も不必要も…』
お互いのこと知ってるじゃん。そう言えば、レンは目を丸くしていた。私はレンの腕を解き、その前に立つ。
『別に私たちの間に、認める認めないの感覚は、必要ないよ』
そう言って、またレンの頭を撫でる。私は少し屈んで、レンの目線に合わせた。
「…本当にレディは……」
『え、何また笑ってるの』
「いや…、もう敵わないと思ってね」
『それって褒めてますか?それとも馬鹿にしてますか?』
「褒めてるんだよ」
笑いながら言われても、全然これっぽっちも嬉しくない。私は立ち上がって自分の荷物を持つ。
「帰るの?」
『うん。だからさ、レン』
寮まで送ってよ。なんて言えば、少しの間きょとん、とした後、ぷはっと笑い「仕方ないなあ」と言ってくれた。照れ笑いって言うのだろうか。ただ、その時のレンの顔は、神宮寺を背負うレンの顔じゃなかったのは確かだ。
ああ、後。真斗君だって、レンのことをそう捉えてると思うよ。羨ましいって、それを捨てるのは勿体ないって。ただ、二人とも下手くそなんだよ伝え方が。でもそれって、お互い認め合ってるってことでしょ。
『素敵な友人を持ってるね、レン』
「……?」
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