少女Aのぽかぽか日和 | ナノ



あれから、トキヤをなんとか押さえ込み、無事着替えることができました。その後の授業もいつも通り。ただ、なっちゃんの眼鏡が外れそうな時は怖かった…。



『あー、疲れた』



放課後。鞄を持ち、音也のジャージが入った袋をもう片方に持つ。今頃みんなレッスンとかしてるんだろうなー。私は作曲家コースでも、アイドルコースでもない。この学園に入ったのは、コンサートを作るスタッフさんになりたいから。早乙女先生、普通に許可くれたから、私にパートナーは居ない。まあ、寂しくはあるけど。



『んー。…ん?』



靴を履いて外に出る。道中伸びをしていたら、見知ったオレンジが見えた。



『レーン』

「…やあレディ。どうしたの?」

『いや、レンが見えたから…』



でも、どうやらレンは一人で悩んでたらしい。私が名前呼んだ時も、いつもより反応が遅かったし。それから、放課後だというのにレンは女の子と居ない。どうしたの、って聞けたらいいけど…。そんなこと言ったら、はぐらかされるだろうし。



『隣、座っていい?』

「珍しいね。どうぞ」

『ありがと』



座ったら、その荷物どうしたの、なんて聞かれた。音也のジャージを借りたことを言えば、妬けるとかなんとか言われたけど知らん。ていうか、レンの言うことはあまり信じないよ私。



「レディはレッスンに行かなくていいの?」

『行かせたいの?』

「いや…」



なんと歯切れの悪い。まあ、一人になりたいんだろうね。仕方ない。ここはおとなしく帰りますか。冗談だよ、なんて言いながら私は腰を上げる。



『私、コンサート作る人になりたいんだ。早乙女先生も知ってるから、私にはパートナーも居ないし、レッスンに出ることもないんだよ。たまにちょっかい掛けに行くけどね』



音也とか翔君は特に行く。レッスンに行ってみたら、本当に楽しそうにしてるから。つい私も「アイドルになろうかな」なんて、そんな才能も無いのに血迷ってしまう。



「知らなかった…」

『…?』

「レディが、コンサートを作りたい、だなんて」



レンを見れば、なぜか捨てられた子犬みたいになっている。あれれ?レンもわんこ属性?私は不思議に思いながら口を開いた。



『あたりまえ、誰にも言ってないもん私。…それに、私もレンのこと知らないから、』



お互い様じゃん?って言えば、レンは驚いた顔をしてた。その後に笑い声が響く。なんだなんだ?もしかして、悩みすぎて頭パーンなった?



「っくく、レディには敵わないな」

『なんだそれ。笑うのやめんかい』

「ごめんごめん。つい、ね」

『なんの"つい"だバカヤロー』

「まあ、座りなよ」

『?もう帰るよ』



そう言えば、レンが私の腕を掴み引っ張られる。すとん、と座ったのは、なんとレンの足の間だった。そのまま後ろからギュッと腕がお腹に回る。絞められて少し変な声が出た。ぐえって言ったよぐえって。



『ちょっ、』

「…行かないでくれ」

『……レン?』

「………」



ぎゅうっとお腹を絞める腕は、何をしようと外れない。少ししてそれを理解した私は、おとなしくレンに抱きしめられることにした。見つかったらただ事じゃないけどね、まあいっか。

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