『一君!』
「名前か。どうかしたか」
廊下を掃除していたら、なんと一君に出会った。ふふふ、これだけで私の力はフルパワーだわ。
『土方さんに廊下の掃除をね。一君は何してるの?』
「今から副長に報告するところだ。…あまり副長を困らせるな」
『え、私なの』
一君は土方さん命だ。そんな私は一君命だ。どうでもいいとか言わないで。一君は巡察帰りなのか、浅葱色の羽織りを着たまま。血は付いてないから大丈夫かな。
『おかえりなさい』
「……ああ」
無口な一君だけど、態度に出るから分かりやすいんだよね。私の頭を撫でる一君の手はいつも優しい。へへ、これは私だけの特権だったり。でも怒ると怖い。土方さんより怖い。
「そういえば。菓子屋の主がこれを名前にと」
『おばちゃんが?』
取り出されたのは金平糖。一君が私にぽん、と渡す。
『わあ!』
おばちゃんありがとう!と心で叫ぶ。一君は目を細めて微笑んでいた。そして何かを思い出したような顔をして、また口を開いた。
「次来た時に、礼をしろと言っていたぞ」
『そういうことかよ!』
危うく金平糖を床に投げ付けるところだった。だめだだめだ、金平糖に罪はない。おかしいと思ったんだよね。おばちゃんが親切で私にはしないもん。感謝の気持ちを半分返せ!
「名前。お前は(一応)女なのだから言葉遣いをよく考えろ」
『うん、ごめんね。だけど一君も心遣いをしっかり考えよ』
なんだ一応って。()付ければ聞こえないとかそんなのないからね。お見通しだからねっ。
「それで。礼、とは何をするんだ?」
『えっと…。お店の掃除とか掃除とか店番とか掃除とか掃除とか』
「そうか…。頑張れ」
『え、つっこまないの?』
最後に私の頭を撫でて、土方さんが居るであろう場所に向かった。ていうか撫でられやすいな、私の頭は。そう思い、頭に手をやってみる。
『あ。髪ぐしゃぐしゃだ』
髪を直す時も幸せだったり
(平助、ちょうどいいところに!)
(何やってんだよ?)
(髪結って下さい。高い位置で)
(……女なのにできねーの)
(なんだよ畜生!)