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龍也さんのお手伝いも終わり、ひとり寮への道を歩く。こっちの世界に来てだいぶ経ったような経ってないような。でも最初は、普通に今通えてる道も迷ってたと思うと…。ごめん藍ちゃん。私は8ビット以下かもしれない…。





『ま、今は帰れてるから気にしなーい!』

「何を気にしないの?」

『ぎゃっ!!!!って、音也!』

「うん!名前今帰りなの?なら俺と一緒に帰ろようよっ」

『(きゅんっ)帰る!ぜひともっ!帰らせてください音也くんっ!』

「えへへ。なんかそんなに喜んでもらえると誘ったこっちも嬉しいや。お手伝いお疲れ様!」






うお。天然胸キュン製造機がここに降臨しておる。音也のあざとさほんっと武器だよ。可愛すぎだから。





「名前っていつもこんな時間まで手伝いしてるの?」

『いつも、ではないけど。今は少し忙しいみたい』

「そっかー。今日はたまたま会えただけってことなんだ。あ、でもこんな遅い時間に女の子1人だと危ないよ?」

『ふお…っ!私を…、お、女の子として扱ってくれるのはなっちゃんと音也だけだから心配しないで…』

「えー?」





自分で言ってて涙出てきた。そうだよ、私女の子扱いされてないよ!?あと夜道って言っても、車の通りも多いし、人も歩いてるし、あと街灯も明るいから大丈夫なんだよね。そりゃ近道して公園を横切ったら危ないだろうけど、あんなおばけ出そうなところ歩けない…。






「うーん。でもやっぱり気をつけてね!あ、そうだ!俺今日この雑誌の取材受けたんだよーっ」

『え!?本当!?ふはっ、買わなきゃ!!いつ発売されるの?』

「買わなくても、俺のところに1冊届くのにー』

『えー!それじゃダメだよ!私のお金…って、まだわたし龍也さんに借りたままだった…。っでも!自分で買いたい!他でもない、大好きな音也が出てるから!』

「っ…!?」

『とりあえず今のところは、カルナイも含めてスターリッシュが出てるのも全部あるよー!みんなが出てるものは見なくちゃね!』

「あ、あー。そういうことだったんだ…(ちょっと、…びっくりした、)」

『ん?どうしたの、音也』

「う、ううん!なんでもないよ。それより昨日はどうしたの?れいちゃんが遅くに帰って来たから、何してたのーって聞いたんだけど。名前と一緒だったことしか聞いてなくて。送ってもらったの?」

『昨日は嶺ちゃんのスタジオ見学してたよ。それで帰りは車で送ってもらった、んだけ、ど…』






話しながらはた、と気づく。ん?待ってこれ言って良かったの?だって嶺ちゃんのことだから音也には言いそうじゃん。なんで言ってないの?これ、私の憶測が正しければ…。





『音也、』

「ん?」

『昨日、音也が嶺ちゃんに何してたか聞いた時。もしかしてトキヤもいた…?』

「うん、いたよー!どうして?」






笑顔のまま、こてん、と首を傾げる音也に胸きゅんしながら、嶺ちゃんが音也に昨日のことを言わなかった理由を理解した。そりゃトキヤの前では言えないよねー。説教が始まった挙句、きっとなかなか終わらないんだろうな…。





「送ってもらったけど、何?」

『ぅ…っ』





なにほんともうあざとい!あざとすぎない!?隣を歩く音也が、会話の再開を求めて私の顔を覗き込んでくる。かわいすぎると頬を赤らめる私に音也はきょとんとしていて、またそれにもきゅんときた。もうなんか私変態みたいだ…。なんて思ってたら脳内で藍ちゃんが今更じゃない、と言ってくる。くっそう。脳内藍ちゃんは愛の言葉しか言っちゃだめ!脳内の藍ちゃんは頭を振ることでどこかにやる。さて。音也のことはどうしよう。私は言ってもいいんだけど、音也の場合口止めしてもいつか忘れてぽろっとトキヤの前で言っちゃいそう。でもなあ…。ちら、





「?名前、どうしたの?」

『ピュアボーイめ…!!』





さすが春ちゃんと等身大の恋ができる男…!こんなピュアピュア攻撃受けたらもう…!





「……………」

『(ああ、でもどうしよう。嶺ちゃん泣く?泣くよね!?トキヤに説教される時っていつも涙目だったし!頑張って切り抜けた嶺ちゃんのことを思うと、私どうしたら…!)』

「ね、名前。俺、名前のことまだよく知らないけど、すごく好きだよ!だから…」

『(かっ!!!!!)昨日は帰るの遅くなっちゃって龍也さんにふたりして怒られたの!』

「え、?(好きだから、名前が話せるまで待つよって。言いたかったんだけど…)」






脳内嶺ちゃんが、ちょっと名前ちゃーん!?なんて泣いてるけど気にしない!あんな笑顔で好きだから、なんて言われたら他のことどうでも良くなるわ!





「えっと…、ふたりで日向先生に怒られて…、それであんなに遅かったの?」

『う、ん。帰る前に、ちょっとだけドライブもしたけど』

「そうだったんだー!れいちゃんの運転ってどんな感じ?俺も今度乗せてもらう予定なんだー!」

『どん、な?……えっと、安全運転?』

「あ、それは分かるかも!れいちゃん法定速度守りそう!」

『音也くん、その気持ち分からんでもないけどアイドルが言っちゃだめだよ?』





法定速度守りそうって何。音也は車を手に入れたら法定速度守らず運転しちゃうの?





「でもいいなあ。れいちゃん、昨日は名前とずっと一緒だったってことだよね」

『まあ、朝から見学だったし、そんな感じかな?前半は私が見るだけだったから一緒にって感じではなかったけど』

「そーれーでーも!一緒にいたことには変わりないじゃん!あ、そうだ。今度は俺の仕事も見学しに来てよー!そしたら俺も頑張れるし」

『え、いいの!?行きたい!』

「俺は全然大丈夫だよ。でもスタッフさんに許可もらわないとやっぱりだめかな…」

『大丈夫!龍也さんになんとかしてもらいます!』





右手を上げて、はい!と挙手ポーズ。後の敬礼ポーズをすれば、にっと笑った音也が了解!と同じポーズをしてくれた。あ、やば今ので鼻血出血大サービスするところだった。いろいろ話してたらいつの間にか寮の目の前まで来ていたみたいで、私の部屋が通り道の音也とは自然と部屋の前で別れることになった。





『今日は一緒に帰ってくれてありがとう。楽しかったよー!』

「う、うん!俺も楽しかった!…あの、さ…!」

『うん?』





下を向いて顔が真っ赤な音也。なに?私相手に恥ずかしいことあるの?なにこの子超可愛いんですけど。私より背の高い音也が下を向いている。その顔見たさに潜り込むようにどうしたの?と音也の顔を覗いてみた。やっばい今絶対によによしてる。顔緩んでる。すると目の合った音也がぎょっ!と目をまん丸くして、私との距離を少しとった。え!?そんなに?そんなに私距離とられるくらいによによしてた!?自分の頬をぐっと両手で押し上げる。するとその両手に、ふわっと音也の片手が添えられる。





『おと、』

「あのさ…。やっぱりこんな夜道は危ないよ!俺も確かに仕事で忙しかったり名前と時間も合わないと思うんだけど…。っでも!それでも、こんなに遅くなる日があったら、俺に言って?駅まででも迎えに行くから…。だから……、」

『………』





あ、やば。真顔キープしないと鼻血出る。片手は私の手首を握り、もう片方は自分の顔やら頭を掻く音也。おまけに顔は真っ赤。迎えに行くって言うだけで、私なんかにドキドキしてくれるこの純粋あざとピュアボーイはどうしてくれよう。ちょうど私の背中にはドアがあるし、部屋に入れて押し倒すしかないかな?そんなことが頭を過ぎった時、音也からまた声が発せられた。なに!?またきゅんきゅんワードでも言うの!?





「えっと…、連絡先、教えてほしいな。なんて…」

『…………ぶっは…っ!!』





照れたようにはにかむ音也に、手首を掴まれていない方の手で口を押さえる。音也がいる反対方向に顔を向け、このどうしようもなくだらけてしまった顔を隠す。やっばい何あれなんなのほんと。可愛すぎるんだけど!連絡先聞くだけなのにこんな真っ赤になってくれるの!?とりあえず、顔の筋肉の緩みを必死に抑え、うん!連絡先交換しよう!と爽やかぶってはみたけれど、絶対にかっこついてない。つい最近、龍也さんに連絡取れないとこっちも困る、といただいた連絡手段ツールiPhoneを取り出す。お給料出たら翔くんたちがCMやってたあの機種買おう、なんて思ってもいる。そんなこんなで音也と連絡先を交換した私は、照れはにかみ王子の音也と別れ部屋に入る。お風呂から出た時、音也からの通知にまた顔が綻ぶのを我慢できず、興奮して寝られなかったのは言うまでもない。





(みんなにも聞いておこう)


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