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がこんっ。






『えーっと、翔くんがコーラで音也がスポーツドリンク。セシルくんが確かパイナップルジュースっ、と…』

「すまないな名字。マネージャーでもないのにこんなこと、」

『んー?大丈夫だよ!マネージャーでは無いけど、ほら!友達同士でじゃんけんとかして負けたら買いに行くって遊びあるし!』

「ふ…。そうか。礼を言う」






ふわっと、笑った真斗くんに、私の胸は弾まずにはいられなかった。なに今の…っ!超絶可愛かったんだけど!?聖川家万歳の気持ちでいっぱいになったんだけど!ジュースを抱えながら来た道をふたりして戻る。あ、トキヤに飲むおしるこ買うの忘れた。あのカロリー重視なトキヤに渡したらどんな反応するだろうって考えてたのになあ。まあ、今度でいっか。






『真斗くんはジュース良かったの?』

「ああ。俺は水筒を持参しているからな」

『おお。まさかここで真斗くんのそんな一面が見られるとは』






真斗くんおかんの一面、出会って1日も経たないうちにゲットです。ありがとう神様。今割烹着が見えました。いつか本物を拝みたいなあ。






「名字、」

『な、に…?』






名前を呼ばれ顔を向けると、横を歩いていたはずの真斗くんが、なぜか少し斜め前にいる。なぜかこっちに手を伸ばしてくる様は、スローモーションに見えた。え、なになになに。なんでそんな伏し目がちなの!?ちょ、色気が…っ!

真斗くんのフェロモンにやられていると、腕の中にあったあの冷たい感覚が全て無くなった。あれ?






「女子に持たせる物ではなかったな。気づくのが遅くなってしまった」

『え!?あっ、いや…』






すまない、と謝る真斗君に、大丈夫だよ!と慌てて返す。ていうか久しぶりに女子扱い…っ!女子を「おなご」って言うあたり、真斗君らしいなと思っていたら、自然と笑みがこぼれた。ありがとう、と伝えたら、礼には及ばぬと、また真斗君らしい言葉が返ってきた。そして今度は真斗君の腕にジュースがある状態で来た道を戻る。






『さっき、ここまで来る時も話したけどさ、真斗君は妹さんが1人いるんだよね』

「ああ。とても危なっかしくてな。いつも俺が見てやらねばと、何処か出かける時はいつも世話をやいている」

『なんか光景が浮かぶよ』

「…、俺が妹離れをできていないのかもしれないな。そういえば、七海も見ていてとても危なっかしい。だが、あいつにはいつも驚かされてばかりだ」

『春ちゃん?』






おおっと!これは恋に発展しているのかな!?聞きたい聞きたい。藍ちゃんの成長も見届けたいけど、私的にはやっぱりこっちのことも見届けたい…っ!ていうか見届けるとかそんな優しく包み込んであげる的なことではなく、ただそれをガン見してうはうはしたいだけですごめんね。






「あいつは…、とても天然なうえにドジを踏む。あの性格ゆえ、いつか変な奴に付け込まれるのではないかと、見ていて不安になるが。しかしあいつは…、七海は、思った以上に強い。いつだって、足元が危うい時ほど踏ん張る力を持っている。それを見て、俺も頑張ろうと、あいつから力を貰っているも同然なんだ」

『…、』

「あ。すまない、つい俺の話をしてしまったな」

『え?なんで?わたし真斗君のこともっと知りたいよ!』

「名字、」






歩きながら、春ちゃんから力を貰っていると話す真斗君は、とてもかっこよかった。誰かを強いと認められるその気持ちと、そこから力を貰える真斗君はすごくかっこいい。妬み、だとかそんなことにならない人間は、この芸能界の世界にどれだけいるんだろう。






『私がスターリッシュとカルナイのファンだって知ってる?』

「ああ、黒崎さんから教えていただいた。まさか黒崎さんからあんな言葉が出てくるとは思っていなかったため、少々驚いたが…」

『は……(え、なんて言ったんだ蘭丸…っ!)』






お願いだから変な誤解を生むようなことを言ってませんように!!






『ま、まあ蘭丸のことは後にして…。でね、私は真斗君たちのファンなんだけど。テレビとか、雑誌でしか見たことなかったのに、私もすごく力を貰ってるんだ!』

「…!」

『テレビに映る時なんて、こうやって近くにいる今の状況からしたら少しの時間だけのように思えるし、雑誌だって、インタビュアーの人とかが考えた質問しかないでしょ?でも写真でも分かるくらい、スターリッシュはとても仲が良くって。いつも元気もらってた』






私が元気を貰ってた人たちの支えが、春ちゃんだってこと。すごく感謝してるんだ。


そう言えば、真斗君は少し驚いた顔を見せた後、ふっと、先程とはまた少し違う笑顔を見せてくれた。






「お前は、四ノ宮が言っていた通り、すごい奴だな」

『えっ!!なっちゃんも何か言ってたの!?』

「ああ。とても温かく、気づいたら心がぽかぽかしていると、そんな風に言っていた」

『う、え…っ!本当!?』






なにそれすごく恥ずかしいっ!そんな人だと思いながら真斗君は私に接してたの!?途端に顔が熱くなった。私そんな大それたことしたかなー。






「名字と話ができてよかった。あの一ノ瀬がお前に心を開いてる理由が、この少しの会話だけだったが理解できた気がする」

『え。あれって心開いてるの…』






トキヤの私への態度を思い出しながら、あれが心を開いている…?と、考えていたら、眉間に皺が寄っていたらしく、それを見た真斗君の笑い声が聞こえた。真斗君、結構笑うなあ。最初の時、トキヤと蘭丸の次にすごく怪訝そうな顔してたし、私嫌われてるかなあって思ってたんだけど。予想外すぎて、頬が緩んでしまった。






「名字、……っ!!」

『…えっ、あ、なに?』

「ああ、いや!その……」

『うん?』






どうしたんだろう、真斗君がすごく慌ててる。普段きっちりしてる人のこういう姿ってきゅんきゅんするよねー。






「っ…、また…!」

「あー!!!名前ー!マサー!」

「……一十木か」

『あれ?音也だー!!』

「へへっ、遅いから迎えに来ちゃった!!」

『(きゅんっ!)わんこめ…っ!』






待ちくたびれた音也が迎えに来たことによって、真斗君との会話は打ち切られた。俺が持つよー!なんて言いながら、真斗君からジュースを受け取る音也を見ながら、はて。さっき真斗君何か言いかけてたような…。なんて思いながら真斗君を見ていたら目が合った。はた、とする私に首を傾げる真斗君。すごく可愛い。なんだあの子。めちゃんこ可愛いんだけど連れ帰っていいですか?

ジュースを受け取った音也が先陣をきって歩き出す。今度は3人で来た道を戻ることになった。ロビーに戻ったら、これまた待ちくたびれていたらしい翔くんとセシルくんに、早くしろー!と急かされた。待って待ってー!と言い走り出す音也に、あの中コーラあるんだけどなあ、と思いつつ時計を見たら、かなりいい時間だった。わわ、龍也さんとこ行かなきゃ!






『じゃあ、私はこれで失礼するねー!』

「えー!?もう仕事ー!?」

『うん!ごめんねー』

「もう少しだけ…、」

「音也、往生際が悪いですよ」

「う。…はーい」






肩をすくめて困り眉の音也。なんとなく頭を撫でると、なになに?と慌ててたけど、すぐ照れたような笑顔になった。翔くんとセシルくん、トキヤにもじゃあねー、と手を振る中、真斗君と目が合った時、また何かを言いたそうにしてた。今聞きたいけど、もう行かなきゃだしなー。あ、そうだ!!






『真斗君っ!』

「ど、どうした?」

『またお話ししようねっ!今度はゆっくり話したいなー!』

「あ、ああ…っ!」






真斗君の照れた顔を拝見して、私はこの日龍也さんの所に向かいました。





(また今度、そんな約束)


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