15



龍也さんのところに行くには少し早い朝の時間。なんとなく部屋から出て、遠回りでもしながら事務所に向かおうと思い、外へと歩みを進めていた。長い廊下を歩いてると、ロビーに差し掛かる前に声が聞こえた。

こんな朝早くから、誰かいるのかな?

なんて思いながらロビーに顔を出すと、






「あ!名前ー!おはよーっ!」

『おはよう!何してるのー?』

「今ねー、マサが作ってきてくれたおにぎりを食べてるところなんだー」






ロビーには、音也、トキヤ、真斗くん、翔くん、セシルくんがいた。私に気付いた音也が声をあげて挨拶をしてくると、私の存在に気付いた他の4人が一斉に私を見る。





「よう!お前、朝早いんだなー?」

『翔くんおはよー。龍也さんのところ行く前に散歩でもしようかと思って』

「名前…。日向先生の所に着く前に、また迷子になったりするんじゃねーぞ?」

『さすがに道くらい覚えたよ!?』






く…っ。確かに、この前出会った時は迷子になっていたけども!同じ過ちは繰り返さない!絶対に!







「名前…。前から思っていたのデスガ、アナタからは不思議な感じがシマス」

『うお!セシルくん!……それは良い意味として受け取っておくよ、』






むむむ。と、納得がいかないのか顔を寄せてくるセシルくんに冷や汗が流れる。ぐぐぐっと、押し返すもセシルくんは構わずぐいぐいとくるため、私は思ってもない所で海老反りになっている。ちょ、誰か!こんなところで私の体の柔らかさアピールいらないでしょ!?でも、そろそろ限界なんだけど…っ!






『セシル、くん…っ!も…!げんかい…っ!うわ、わっ!?』

「え、」






ーーーーーーーぽふん。



………あれ?あれれ?地面とご対面するはずの背中が痛くない。むしろぽふんって。しかもなんだこの体勢。足の重心は思いっきりずれていて、なんと後ろに寄りかかる姿勢。そしてなぜか両脇には、誰かの手が差し込まれている。おお。私はこの手に支えられているのだな。さてさてお礼を言わねば。






『………って、トキヤだ!!!』

「こちらを向いたと同時に叫ばないでいただけますか?」

『トキヤだー!ほんものー!!』

「はぁ。うるさいですよ。とりあえず、私の支えがいらないようなので、」

『ごめんなさい。体勢を持ち直しますのでもうしばらくお願いします』

「まったく…」






トキヤの溜息を聞きながら私は体勢を整えた。ふぅ。ようやく元に戻った!

愛島さんも、過度なスキンシップは控えるように。

一息ついていたらセシルくんを注意するトキヤの声。しゅん、としたセシルくんが、私にごめんなさいと謝ってくる。きゅんっ。かわいい。かわいいものは全て許されるべきであるという私の信念により、下がってしまったセシルくんの頭をぽんぽん、と撫でる。






「…なぜあなたは愛島さんの頭を撫でているのですか」

『かわいいなーって。あ!トキヤも撫でてあげようか!』

「結構です。いりませんから。…あ、こらっ!何をするんですか、やめなさいっ!」

『いーいーじゃーん!ほらほら!大人しく観念しなさいっ』

「な!?…まったく!何をするんですか!」

『頭を撫でようと、』

「私が聞きたいのは、なぜそんな馬鹿げたことをしているのかです。誰もこの状況など聞いてません」

『馬鹿げたことだとー!?』








「なあ。あいつら、いつの間にあんな仲良くなったんだ?」

「俺も思ったんだよー。トキヤから何も聞いてないしさあ」

「一ノ瀬があんなに取り乱されているとは…」

「まあ、この前鬼ごっこしてたくらいだしなっ」

「「 鬼ごっこ!? 」」






名前の存在はまだまだ不思議だと思った3人でした。


トキヤとの言い争いというか掛け合いというか、コント?「やめてください」否定が早い!私寂しい!…冗談はさておき、ひと段落ついたときに、ちらりと真斗くんを見てみた。うーむ。未だに警戒されてるのかなー?いきなり話しかけても大丈夫かな。でもなあ、それで嫌われるのも嫌だなあ。






「聖川さんに、何か用事でもあるのですか?」

『え?あ、いや…」

「?…………、ああ、なるほど。声をかけたいのですね」

『うお!なんで分かったの?』

「誰だって分かります」

「名前はマサトと話しがしたいのデスカ?」

『したいんだけどねー、』

「マサト!名前がお話をしたいそうデス!」

『ぎゃあぁあぁあぁあ!?あの子何やってるの!?ちょ、セシルく…っ』

「ふむ、そうか……。俺も、名字と話がしたいと思っていたところだ」

「だそうデス!!」

『予想外の展開デス!!』






セシルくんの話し方が、てんぱりすぎて移っちゃったよ!?ていうか何、あの子の「だそうデス!」って言った時のキラキラした笑顔。びっくりしたんだけど。王子様スマイルとかそんなレベルじゃなかったんだけど。どんだけ純粋なんだ彼は怖いわ!

まあ、この件はひとまず置いておこう。というか、真斗くんといざ話すとなったら話題が見つからないっ。こんなんだとやばい、確実に嫌われる…っ!






「名字、少し移動しないか?」

『あ、え』

「ここだと。その……、話しづらくてだな」

『…それもそうだねっ。よし!みんな散れー!私と真斗くんは今から少し移動する!』

「おっ!じゃあ俺コーラ!」

「あ、ずるいっ。俺もスポーツドリンク!」

「ワタシはパイナップルジュースがいいデス。ここのパイナップルジュースはとてもおいしいデス!」

『買って来いってか!?』






(こんな扱いって、ありですか?)


| top |