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「名前ちゃーん!待ってくださーい!」

『お?』






藍ちゃんの不思議訪問があった翌々日。朝早く、寮の廊下を歩いていたら、後ろからたったったったっ、と走る音と一緒に私の名前を呼ぶ声が聞こえた。誰か、だなんて振り向かずとも分かる。ファン歴長い私をなめていただいては困りますよ。この声はまさしく…っ!






『なっちゃん!!!』

「おはようございます、名前ちゃん!朝から早いんですねぇ」

『おはようなっちゃん!なっちゃんもこれからお仕事?』

「はい!CMの撮影なんですよー」






ぽわぽわしているなっちゃんを見て、朝からマイナスイオンを感じる。ああ、これがなっちゃんか…。と実感しながら、実は初めてに等しい会話に喜びをかみしめる。花が、花が頭の周りを浮いてるよなっちゃん。癒されるなあ。






「あ。僕もってことは、名前ちゃんもお仕事ですか?」

『うん!今から龍也さんのところに行く予定なんだ。今日は林檎ちゃんもいるみたいで、なんの話かは分からないんだけどねー』

「そうなんですねぇ。じゃあ、僕と一緒に途中まで行きましょう!」

『いいのー!?なっちゃんとお話ししてみたかったから、すごく嬉しいよ!』

「本当ですか?実は僕も、名前ちゃんとお話ししたいなって思っていたんです!」






とりあえず、歩きましょうか。という声につられて、なっちゃんと二人で足を動かす。それにしても、背が高いなあ。なっちゃんのクリーム色の髪とか、優しそうな笑顔を見ていたら、自然と笑みがこぼれた。は…っ!こんなに優しく接してくれたのって、音也含め二人目じゃない!?ありがとう、と心の中で感謝を伝えていると、なっちゃんが私を見ていることに気づいた。おおう!?なんだなんだ!そんな優しい顔したってなんも出ないぞ!?私今お金持ち合わせてないし!






「ふふ。名前ちゃんは、やっぱり思ったような人ですね」

『思ったような…?それはつまり、えっと……。ど、どんなイメージ?』

「そうですねぇ、」





大丈夫かな、私変なイメージ持たれてないかな?ドキドキしながら返事を待つ私に、再度なっちゃんは優しく笑う。きゅんっ!なにその笑顔反則!かわいい!わんこ!!






「最初に紹介があった時は、ハルちゃん以外の女の子が寮に入ることにびっくりしました。だから僕、あの時声が出なくて…。すみません、嫌な思いをさせてしまいました…」

『ああ!謝らないで!それが普通の反応だし!』






だからそんなにしゅんとしないでぇえぇえぇえ!!!みんながびっくりしてたのは分かったし、あの中でそれ以外の表情があったのは蘭丸とトキヤだけだから!






「やっぱり、優しいです名前ちゃん。翔ちゃんが言ってたこと、僕にも分かります」

『え、翔くん何か言ってた?』

「はい!うるさくてばかで、でも憎めない奴!って言ってましたよー」

『なにそれ、褒めてるの?褒めてないの?ていうかそもそも良いことなの?』






くそう。ちょっと期待してわくわくしながら聞いてた過去の私よ、その質問はするべきものじゃなかったと伝えたい。






「思っていたような、っていうのは。なんて言ったらいいんでしょうか…。うーん………。あたたかい?」

『あた…?』

「音也くんに、太陽のイメージがあるみたいに」

『ぇえ!?そんな恐れ多いよ!?私にそんな力なんて無いし…っ』

「そんなことないですよぉ」






優しく笑ってくれるなっちゃんに、少し照れながら笑顔を返す。もちろん、ありがとう、と言いながら。そんなこと思われてたんだなあ。あたたかいってなんだろ。音也のイメージは確かに分かるけど、私あんなに明るくはないしなあ。






『でもでも!なっちゃんもそんなイメージ!太陽とは違うけど、あたたかいで言ったらたんぽぽみたい!』

「たんぽぽさん、ですか?」

『うん!あのね、ふわふわしてる感じもそうなんだけど。たんぽぽってね、アスファルトからも芽を出せるんだって!』

「わあ!すごいです!たんぽぽさんって、すごく強いんですね!」






そういうところかな、って言うと、なっちゃんは頭にハテナを浮かべてた。

なっちゃんには、アスファルトを割って出る力があると思うんだ!

背の高い彼を見上げながら伝えると、すごく驚いてた。自分は弱いと言う彼に、そんなことはないと、なっちゃんは本当はとても強い子なんだって、私のすごく伝えたかったことのひとつ。






『自分が弱いって受け入れられるのは、本当は強い証拠なんだよ!』

「名前ちゃん、」

『あ!もうこんなところまで来てたんだね!なっちゃんはこっちかな?』

「え?ああ、はい!名前ちゃんは事務所、ですよね」

『うん!じゃあ、ここで一旦お別れだねー。もっと話したかったなあ』

「ふふ。これからお話しする機会は、たーくさんありますよっ」

『!…そう、だよね!たくさんあるもんね!よし!そうとなったら早くお仕事終わらせるぞー!打倒!シャイニーっ!!!!』

「わあ!名前ちゃんとても燃えてます、かっこいいですー!僕もお仕事頑張りますね!」

『よし!なっちゃん!!お互い頑張ろうねっ』

「はい!!」






お互いの印象を話していたら、いつの間にか門まで来ていた。なっちゃんと話すと癒されるなあ。全然会えなくて、話せてなかったから話せて嬉しい。またね!と手を振ると、名前ちゃん、って少し低めの声が返ってきた。あれ?なっちゃんどうしたんだろう。少し俯く彼の顔を覗こうとすると、ゆっくり顔を上げながら私の両手をとり、なっちゃんの胸元辺りに持っていく。少し屈んだなっちゃんがどんどん近づいてきて、近い近い近い!と思っていると、こつん、と額になっちゃんの額が触れた。






『!?!?』

「うん。名前ちゃんから元気をもらいました!」

『え!?なっちゃ…!』

「あ、もうこんな時間ですね!名前ちゃん、今度はゆーっくり話しましょうねぇ!…来年のたんぽぽ、一緒に見にいきましょう。約束です」

『う、え!?』






最後に、なっちゃんは私の額にキスをひとつ落として走り去って行きました。耳に残ったリップ音と、額に残る唇の柔らかさに、私の思考は門の前で奪われてしまった模様です。







(天然こわい…っ!!!!)



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