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今日は仕事で忙しい。……………………はずだった。





少し。ほんの少しだけ気になるだけだったんだ。ボクの中の【アイネ】の気持ち。彼はいつでも、もう嫌だとしか言わない。どれだけ声をかけようと、何をしようと、もう疲れたんだとしか言わない。

どうしてか。ここ最近オーバーヒートを起こすことが頻繁になった。なんでだろう。今日も少し調子が悪い。極力エネルギーは使わないようにしよう。燃費が悪くなってきてるのかな?






------------ うわ、わ!!すごい!テレビに映ってる!!






廊下を歩いていたら、彼女の声が聞こえた。また、何かバカなことをしてるんだろうか。………彼女のことだって、最初は最悪な印象しかなかったんだ。枕がしゃべった、とか言ってて。ああ、このコは馬鹿なんだって思った。でもなんでだろう。気になってる自分がいる。気づいたら、彼女の部屋の前まで来ていた。なんで無意識にここ来ちゃったんだろう。やっぱり最近のボクはおかしい。彼女と関わるとエネルギー使うことは間違いないのに、


彼女に、聞いてみよう。だなんて。






『うわぁあぁあ!やばい!!なに今の翔くん!かわいすぎたよ!?』

「なに叫んでるの」

『………なんでナチュラルに乙女の部屋ノックなしで入って来てるの、藍ちゃん』






扉に手をかけたら、鍵が開いてた。部屋には予想通り、間抜けな顔をした名前。なんでこんなに無防備なんだろう。始めから違和感はあった。お互い知らないはずなのに、向こうは全く警戒しないし。ボクがどれだけ棘のある言葉を投げようと、彼女はへらへら笑ってる。受け入れられてる感覚が、変に不思議だった。後から事情を聞いた時に、そんなことありえないと思う反面、出会った時の不思議な感覚には納得がいった。

少しの沈黙の中、テレビにはオトヤが写ってる。名前を見たら、頭にハテナを浮かべてボクの訪問に合点がいかないようだった。ボク自身把握できていない状態なのに、キミに分かるわけがないんだ。なんだろう、このモヤモヤ。早く聞くだけ聞いて立ち去ろう。


帰りたいと思わないのと聞くボクに、名前はきょとん、とした顔を向ける。今の今まで考えていなかったというように、思考が変なところへ行ってしまっている彼女の心は筒抜けだ。頭悪いと言えば謝る彼女。こんなこと聞くボクもバカだと思い、変に時間を要してしまったことに後悔した。早く次の現場に行かないと。すると、あーだこーだと文句をいう名前が、急に声をあげた。ボクの名前を呼んだとほぼ同時に、腰に衝撃があった。見れば名前で、予期しなかった事態に驚く。






『藍ちゃん大好きだよ!!』






………なにそれ。今聞いてないし。大体、ボクの聞きたい答えと違うよ。そんなことを思いながら、どう引き剥がそうかと彼女に手をやると、もっと力を込められた。ボクのデータに女性という生き物にこんなに力があることは載ってないんだけど…。離さない、離れないとでも言うように。彼女の腕には力が込められていく。でもそれは別にイタイとか、そういう訳でもなくて。なぜだか暖かくなる胸に疑問を抱きながら、さっきのモヤモヤとは違う感情になっていることに気づいた。どんな感情かは知らないけど。見ると名前は笑ってた。ボクはなんだか分からないけど、くすぐったくて、でも心地良い初めての感情に戸惑いながらも、なんとなくこれは名前に知られたくないと思って、誤魔化すように彼女にパンチをお見舞いした。







(初めての、誤魔化し)


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