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『う、わ!?』

「……あなたは、」

『え、ぇえ!?その声は一ノ瀬くん!?』






こんにちは。今日も今日とて龍也先輩のお手伝いをしております私は元気でいつも通りです。ええ、この自分の視界さえ遮ってしまうダンボールさえ無ければ。龍也先輩に頼まれたこのダンボールには、どうやら衣装が入っているらしく、それを運んでる最中なんですが。なんたって前が見えない!!自分の足さえ見えないのに、どう運べと言うのか!?でも、龍也先輩の


女のお前に持たせる物じゃないよな。俺が持って行くから、そっちの小さい方をお前は持ってってくれ。


なーんて言われてしまったならばですよ。いえ!!私できます!やればできる子なんです!と、言ってしまう訳でありまして。だってあんなに忙しそうな龍也先輩見てたらそうなるもん!持てなくても持てるって言っちゃうもん!とまあ、そんな感じでよろよろ向かっていたら、なんとあのトキヤさんにぶつかってしまったらしい。ごめんねトキヤ。なんかもう、あなたにだけは関わらないようにしてたんだけどな。最初に挨拶した時、少し怪訝そうにしてたし。良く思われてないのは誰が見ても分かることだったからね。うん。でも私、そんなことじゃめげないよ!やればできる子!とは言え、ここを無言で通り過ぎるにも遅すぎる状態。ここは一言交わしたら、速やかに、スマートに!通り過ぎよう。






『えっと…。ごめん、なさいぃいぃいぃいぃいぃいぃいぃいぃい!!!!!』

「はあ!?ちょ…っ!」






ごめんなさい全然スマートじゃない。無理です限界です。やればできる子とか言ってごめんなさい!指定された部屋まで猛ダッシュで向かう。何度も言うけど前が見えない!そして私はあろうことか、何かに躓いてしまった。げ、っと思ったがもう遅し。だんだん前に倒れる自分の体を持ち直すことができず、来たる衝撃に覚悟をした。なんか私、誰かにぶつかること多いなあ。レンくんもぶつかったし。なにこれ不吉な前兆?くそう。そもそもはこんな仕事を龍也先生に押し付けたシャイニーがいけない。悪いのはあやつだこんちくしょー!






「…っ名前!」

『え…う、ぎゃあ!?』






ドスン!!!!

誰かに引っ張られ、後ろに倒れた私。前では、ダンボールが宙を舞って廊下に落ちた音がした。


正直に言おう。お尻が痛い。すごく痛い。でもね、この廊下では早朝なせいか、私以外見当たらなくて。そんな中唯一出会ったのはトキヤだけで。ということはこの後ろで「う…」と唸っているのはトキヤに違いないと思うのです。ていうかさっき名前を…。うんん。今はそんなことどうでもいい!






『っ…!トキヤ大丈夫!?ごめんね私が無理に走っちゃったから…!!どうしよう、アイドルに傷付けちゃったらトキヤのアイドル生命絶たれちゃう!!はっ!!い、痛いところは!?顔?お尻?手?全部かな!?うわああああん!!本当にごめんなさいー!!!!』

「っ、落ち着いてください。これくらいのことでアイドル生命を勝手に絶たせるのはやめていただけますか…」






良かった、普通に動いてしゃべってる。そう言えば、私は機械か何かですかと返ってきた。ぱんぱん、と服を払いながら立ち上がるトキヤを見て、申し訳ない気持ちになった。あ、アイドルに、下敷きになってもらっちゃった………。






『い、一ノ瀬くん。本当にごめんなさい!!』






顔が見れず、俯きながら謝罪をする。トキヤから返事がこない、この間がどれだけ緊張することか。シャイニーから、迷惑かけるようなら星にさせるって言われたのに…っ!やってしまった、私のばか!星だ!私の末路星だわ…っ!?






「はあ、顔をあげてください。別にこれは私が好きでしたことですから、」

『う。でも…』

「む。聞き分けの悪い方ですね。私が良いと言えば良いんです。それより、向こうで落ちてるダンボールはいいんですか?」

『ダンボー…、あ!!!!』






ぎゃんっ!!!!!!ダンボールがあああ!!そうだった!そうだったよ!?うわーん!!!中身大丈夫かな、無事だよね!?服だもんね!?慌ててダンボールに駆け寄る。ガムテープしてて良かった。






「全く、あなたは何をしているんですか。名字さん」

『すみません…』






(あ。やっぱり聞き間違い?)


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