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「やあ、名前」
『ナイト、メア?』
目の前には、ふよふよと浮くナイトメアがいた。なんていうか、久しぶりの登場だよね。それより、私さっきまで何してたんだっけ?全く思い出せない…。
「これは夢さ。君は今寝ている。どうやら滞在先を変えたようだね」
『まあ…。でも時計塔が嫌いになったとかじゃなくて、迷惑になるのも嫌だったから』
「そうか。ある意味正しかったのかもしれないな」
『ナイトメアは何か知ってるの?』
「知っていると言えば知っているし、知らないのもまた事実だ。私は君ではないからね。全てを知ることは不可能だ」
『……』
うそつき…。私が知ってるのって聞いた時、何をだなんて聞かなかった。つまりそれは、ナイトメアは大半のことを理解している証拠だ。
『……だから変態なんだよ』
「ゴバァ!…き、君はまだ言っているのか。私は変態ではない!夢魔だっ」
『夢魔が血なんか吐く訳ないでしょ』
「ゴホッ…うぅ。私は夢魔だ…ちょっと病弱だが…!」
『ちょっとの領域じゃないよね』
そんなやり取りをしていたら、ナイトメアはますます血を吐いてしまった。だからどこが「ちょっと病弱」?私はポケットに入っていたピンクのハンカチを差し出す。
『…ね、ナイトメアはいつから病弱だったの?』
「いつから…だったか。存在している時からだ」
『存在?』
「ああ、私たちはいつの間にか存在しているようなものだ。役付きになる前からこうだった」
『役付き…』
「顔があるもののことだよ。顔なしを見ただろう?」
『…見た、けど』
ナイトメアも、ペーターも、顔なしなんて見分けも付かない、ただのカードだと言う。こっちの世界の人達と、私はあまり意見が合わないようだ。だって、見分けが付かない訳ないし。
「…君は、見分けがつくと」
『また読んだんだ(だから変態なんだってば。あれ、これさっきも言った?)』
「聞こえてるぞ!」
残念なことに、私はシリアスとか難しいことは好きじゃない。それらを考えようとすることも。考えれば考えるほど難しくなって、もういいやと投げ出すのは私のダメな癖なのかもしれない。でも仕方ないよ、嫌いなものは嫌いなんだから。
「それでいい」
『ナイトメア?』
「何も考えず、早く此処に慣れてしまえば…。君は悲しまないですむ」
『……』
「さあ、もう起きる時間だ」
にっこりと笑うナイトメアが、いつの間にか歪んできて、気づけば私はベッドの上だった。
『…寝た気がしないじゃん。ナイトメアのばか』
ボソッと呟いた私の声は、誰にも届くことはなかった。
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