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13
「お姉さんもう帰っちゃうのー?」
『うん』
「もっとゆっくりして行けばいいのに。時計屋と一緒なんて、あんたつまんねぇだろ?」
『つまらなくはないかな(一番まともに接触できるし)』
「お嬢さんが言うなら止めないが…。何かあったら屋敷に来るといい。最高の紅茶を用意しよう」
『ありがとう』
「エリオット、名前を時計塔まで送ってやりなさい。本当は私が送ってやりたいのだが…、仕事が山々でね」
必要な買い物を済ませた私は、時計塔に帰るところだった。帰ると言ったらディーとダムが離してくれなかったけど、ブラッドが注意して離してもらった。ブラッドの送れという一言に、ひとつ返事で返したエリオット。悪いなと思いながら少し嬉しかった。屋敷から時計塔までよく分からないし。
『今日はありがとう』
「いや、楽しんでもらえて光栄だよ。またいつでも来るといい。お嬢さんなら大歓迎だよ」
『ありがとう。じゃあ、また今度』
「バイバイお姉さん!」
「また来てね!絶対だよ」
『うん。またね、二人とも』
二人の頭を撫でて、荷物を持ち直す。私はエリオットと一緒に、暗い森の中に進んだ。
「名前、荷物貸しな」
『わっ……あ、ありがとう』
「いいって。にんじんケーキうまいって言ってくれたし。俺、あんたのこと気に入ったぜ!」
『はは、ありがとう』
歩く中、エリオットはずっとにんじん料理のことを話していた。途中からブラッドの話だったけどね。本当にブラッドのことが好きなんだろうな。私も帰ったら…………帰っ、たら…?
『……あれ?私…いつ帰れるの?』
「あんたが帰るのは時計塔だから今じゃねぇのか?」
『いや、そっちじゃなくて…』
「道間違えてたか?」
『違うよお馬鹿』
今…というか、薄々気付いてはいたけど天然馬鹿なんだね。うん、素直でいいと思うよ。
『私が帰りたいのは…っ!』
「名前?…名前!?おい、大丈夫かよ!どっか痛いのか!?」
『っ……』
―――忘れなさい
そう頭の中に響いた。思考が操られるように、私はその言葉を素直に聞いてしまう。頭がふっと軽くなって、痛みはなくなった。
『あれ…』
「名前?大丈夫か?」
『う、ん。ごめんエリオット』
心配そうに耳を垂らすエリオットに、申し訳ないという気持ちと、表情豊かなところに少し微笑む。それにしても、何を考えていたんだろうか。
「お、もうすぐだぜ」
『本当?ありがとうエリオット。また今度お礼するよ』
「そんなのいいぜ。…あ。なら、今度俺に付き合ってくれよ」
『どこに?』
「にんじん料理の新しい店ができたんだけどよ、ブラッドは来てくれねーし…。その…あんたさえ良ければだけど」
頬を赤くして問いてくるエリオットに、また笑みがこぼれた。
『もちろん』
「本当か!?サンキュー!あんたって本当いい奴だなっ。そん時になったら迎えに来るよ。じゃあな!」
『うん、ありがとう』
エリオットが満面の笑みで手を振る。それに振り返しながら、エリオットの姿が見えなくなったところで塔に入った。帰った時、ユリウスが何か言いたそうだったけど、結局言わず仕舞い。何だろうと思いながら、私も聞かなかった。
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