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11
「どうぞ、」
『あ、ありがとうございます』
使用人だろうか。その人が私の前に紅茶を出してくれた。今はブラッドさんという方の自室かオフィス。さっきの双子もいて、何故か私の両隣に座っている。あの…なんの拷問でしょうか。
「ディー、ダム。お嬢さんが怖がっている。離れなさい」
「えー」
「お姉さんごめんね!もうあんなことしないから」
「うん、しないよ!お姉さんのこと気に入ったからね」
『あはは、それはどうも…』
げっそりして言う私に、ブラッドさんはくすっと笑い、双子はべったりくっついてくる。そこに、扉が勢いよく開いた。
「ブラッド!また門番共がサボってやがっ、た?」
「ヒヨコうさぎだ」
「うるさいよヒヨコ。僕等はちゃんと働いてたもん!」
「お前らいい加減に…!」
「エリオット、やめろ」
「ブラッド…!」
「見て分からないのか、客人だ」
「っ…わりぃ」
「分かればいいんだ。…すまないお嬢さん。こいつはエリオットだ。こんなでも実力No.2でな」
「こんなってなんだよブラッド…」
見れば体格のいい青年。その体格には似合わない兎耳が付いていた。ペーターの親戚…?そんなことを思っていたら、コツコツと近付いて来るエリオットさん。
「すまねぇな…」
『いえ。急に来た私も悪いですし、全然気にしてないですよ』
ちゃんと謝れる人は、いい人だって決まってる。この人はいい人だ。なんて思ったら、自然と頬が緩んだ。
「あんたっていい奴だな…!俺はエリオット=マーチ、よろしくな!えっと…」
『名前です。こちらこそ、よろしくお願いします』
「名前な!」
ニカッと笑うエリオットさんは、なんだか可愛かった。ユリウスにはマフィアだって聞いてたけど、そんなに怖くなさそう。確かに、双子はまだちょっと怖いけど…もうしないって言ってるし、現にブラッドさんはマフィアのボスだけど優しい。いい人の集まりなんだと思った。
「ところでお嬢さん。迷っていたようだが、何処に行こうとしていたんだい?」
『街に出掛けようと…。でも、道が全く分からなくて…』
「君は余所物だからな。この地のことが分からないのは当然だ」
「へー、あんた余所物なんだ!初めて見たぜ!」
「ダメだよ!お姉さんを口説こうなんて思ったら」
「なっ!思ってねーよ!」
私から離れた双子とエリオットさんの喧嘩が少し微笑ましかった。笑っていたらブラッドさんが立ち上がり、私の前にしゃがみ込む。
「もしよかったら、私に案内させてもらえないか?」
『え?』
「ボス!勝手に口説かないでよ!」
「抜け駆けなんて絶対ダメー!」
「お前らは黙れ!」
「「いたっ」」
慣れない扱いに戸惑っていると、ブラッドさんがす、と私の左手を取った。何をするのか分からなかった私は、頭に疑問符を浮かべていた。ちゅっというリップ音が聞こえて、手の甲に感触があった時には、急ピッチで顔が熱くなった。
「おやおや…。こんなことで顔を赤くするなんて、可愛いお嬢さんだ」
『あ、分かった。からかってますね』
「くす…今はそうゆうことにしよう。エリオット、」
「なんだブラッド?」
「出掛ける準備だ。お嬢さんに街を案内しよう」
チラっと私を見たブラッドは、ニヒルだけど、綺麗に笑っていた。
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