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09
『う……また疲れた』
時計塔の前に着いた頃には、もうボロボロだった私。昨日…と言っていいのか分からないけど、案内してもらったユリウスさんの部屋に足を運ぶ。扉の前で一息ついて、扉を叩くべく手を伸ばした。
『ふぅ……ぶっ!』
「は?…名前!?何故ここに居るんだ!城に滞在するんじゃなかったのかっ」
『扉当てたことには無視ですか。それとも気付いてないんですか』
鼻を押さえながら部屋に入れてもらい、椅子に座る。時計の数がすごいな…。部屋を見渡していたらユリウスさんが声を出した。
「で、どういう訳だ」
『ああ!その…ユリウスさんさえよろしければ、ここに滞在させてもらえませんか?』
「は!?」
『…駄目、ですかね…?』
「…っー、好きにしろ」
『ありがとうございます』
ほっとした私は、目の前にあるティーカップを見てユリウスさんに質問をした。
『コーヒーがお好きなんですか?』
「あるから飲んでいるだけだ。ああ、日本人ならお茶とかいう飲み物だったな」
『私はお茶より紅茶が好きです。あんな苦いの…薬としか思えません。そういえば、日本にお茶が伝わった時は、薬として扱われていたらしいですよ。道理で苦い訳ですね…』
「そうか。それより…、そのユリウスさんというのはやめてくれないか。ユリウスでいい。あと敬語もだ」
『え。あ、はい』
急ピッチで話されて追いつけなくなる。でも、好きにしろ、と言ってくれたユリウスさんは…じゃなくてユリウスは、優しい人だと思う。勝手に頬が緩んで、気持ちが楽になった。
『ユリウスさ…ユリウス。この国にはお店とかある?』
「当たり前だ。喫茶店もあるし雑貨屋もある。街に出たら揃っているはずだ」
『へー。あんまり変わらないんだ』
服が一着なのも嫌だし、私にはいつか帰るにしても荷物がなさすぎる。時計塔に住ましてもらうんだし、何か手伝えることは手伝いたい。見るからにユリウスって仕事バリバリしてそうだし…。
『ユリウス、何か手伝うことない?買い物とか…。私ちょっと探検して来るし』
「探検って…子供かお前は」
『失礼なっ。探検は面白いんだよー。知らないこと知れるからね』
「…命は大切にしろ。お前は代えがきかないからな」
『?…ユリウスだって同じでしょ』
「話はこれまでだ。買い物はお前の好きなようにしろ。金はやる」
重い袋を渡された私は、お金を受け取るなんてできず、せめて貸しにしてと頼んだ。けど、ユリウスは「それで必要な物でも買って来い」としか言わない。私はユリウスの部屋を出る時に、ユリウスに向かって言ってやった。
『なら、嫌って言われてもユリウスの手伝いしてやるからなこんちくしょー!』
「お、おい…!」
名前が出て行った後の部屋では、ユリウスが溜息をついていた。
「あの娘は…」
彼女はこの国の住民から必ずしも愛される「余所物」。最初は恋じゃなくても、接触していくうちにそうなったりするのだろうか。私のことなど放っておけばいいのに。知らずとしていいことを知り、ショックを受けるなど馬鹿なことだ。
「…チッ」
目の前にある時計を見て、ユリウスは顔を歪ませた。
0406