「なんでお母さんのは貰ってくれないのー!?」
「だーかーら!その…先に貰いたい奴がいるんだって!」
「要君…!大人になったのね…」
「だあああ!もう離せえ!!」
ったく…。これだと祐希たちが言ってる通りじゃねぇか。いや、断じて違うけどな。高校生の息子に本気でチョコ渡す母親は、数えるくらいだろ。そう考えて溜め息が出た。
『かーなーめっ』
「うがっ!!」
『あははははは!海老反り!要の海老反り!イナバウアー』
「お前は…!毎朝毎朝俺にタックルすんじゃねぇよ!」
『あいたっ!か弱い乙女になんてことすんのよ!』
「か弱い乙女はタックルなんかしねーよ馬鹿」
『か弱いからこそ先手必勝でしょ』
「ふざけんな」
マジ痛てぇ。なんだよこいつ。絶対柔道やら空手やら習ってただろ。俺は腰をおさえながら足を進める。その後ろをついてくる名前は、まだ笑っていた。
『ぷっ、くくく…っ』
「いつまで笑ってんだよ!」
『いやー、要だから』
「理由になってねぇぞ。ったく、毎日毎日…」
『毎日のことなのに、避けれてないよね』
「…………」
笑う名前をチラッと見る。本当、図太い神経の持ち主だよな。無邪気に笑いやがって…。いや、無じゃないな有だな。けど……。そんな奴を好きな俺も、図太い神経持ってんだろう。
『あ、そうだ』
「……」
『かーなめ!』
「…なんだよ」
『はい、ハッピーバレンタイン』
「…サンキュ」
にこりと笑う名前に赤面したのを隠す為、今日も俺は名前のタックルを受けてやる。
『要ー、顔赤いぞー』
「怒ってんだよ」
『へへ。だったら避ければいいのに』
なんか…、全部見透かされてる気がするけどな。
少し甘い雰囲気のバレンタイン