春怪異譚
とおりゃんせ、とおりゃんせ。



最近、僕らの学校で、肝試しが流行っている。と、いうより、どうもこれはオカルトブームだ。時折どこかの教室で、女子が集まってこっくりさんをやっている光景などが見受けられる。こっくりさん、は、ただのまじないではない。それは一種の交霊術であり、また、降霊術でもあるため、素人が安易に行うのはおそらく危険なのだが、だからといって、それを注意してやる義務は、僕にはない。昼休みの廊下を購買目指していれば、嫌でも耳に入る甲高い声。ちらと視線をやれば、そこに見知った姿を見つけ、思わず「あ、」と声を零す。喧騒の中、本当に小さく呟いただけだと言うのに、その見知った人物、南雲柚月はぱっと顔を上げて、嬉しそうに僕の方へと駆けて来た。


「和泉先輩!」
「……南雲」
「ちょうどよかった、先輩も誘おうと思ってたんです!先輩先輩、今夜私達、肝試し行くんですけど、先輩も行きませんか?」
「…肝試し?」
「はい!」


どうも、彼女、南雲は何故か僕に懐いているらしく、こうして時折、犬のように懐いてくる。心なしか南雲の後ろにぶんぶんと振られる尻尾を幻視しつつ、彼女の手に引かれて騒がしい集団の中へと引き摺りこまれていく。一年の教室に連れ込まれる二年の先輩という構図は些か目立つのだが、それを補っても余りあるほどに、その集団は目立つ。それはもう、この上なく。


「あっ、和泉んセンパーイ!なになに、先輩も入ってくれるんですかー?やった!」
「あ、和泉先輩が入ったならあたし抜けていいわよね?うんそうよね決まり、じゃっ、あたしは失礼…」
「逃がさねえよ?あーみーちゃん?」
「うっ…っ、い、いいじゃない!!あたし仕事があるのよ!?」
「お前は今日明日休みだって、紫苑情報」
「あのクソ生徒会長!!」
「はいはーい、琥珀も諦めるー」
「ひぃー!!嫌だーー!!」

「……」


目立つ。この上なく、目立つ。
学校の王子様と呼んでも過言ではない、銀髪が一際目立つこの人気者、遠野刹那と、そこらの雑誌でよく見る現役女子高生モデル。この二人が揃って、目立たないことがあるだろうか。この二人とよく行動をしている茶髪の後輩、皇琥珀はよくまあ付き合っていられるなあと妙なことで感心さえするものだ。時折彼らと行動を共にしているらしい南雲に、一度視線をやり、そうして一度、大きく溜息をついた。


「先輩、お願いします、一緒に行って下さい…!」
「どうして僕まで巻き込まれなくちゃならないのさ」
「うっ、だって、せっかくだから、先輩と行きたくて…」
「……」
「……う、ご、ごめんなさい…怒ってますか…?」
「…何時、」
「へ?」
「だから、何時に、どこに行けばいいの」


何だかんだ言って、結局僕は、この後輩に甘いのだろう。しゅんとした頭を無意味にぐりぐりと撫でつけ、淡々と集合場所と時間を問う。そうすれば、途端に表情を明るくした南雲が、心底嬉しそうに僕の手を取る。ぶんぶんと振られる腕に、痛い、と、苦言を漏らせば、また慌てたように謝る南雲の、その一生懸命さを、僕はどこか遠いところで見ていた。



「あ、ありがとうございます!!えっと、今夜九時に、大きい方の神社の鳥居の前で!えへへ、やった、先輩と肝試し!!」
「日付が変わる前には帰るからね」
「はい!」

「よっしゃー!和泉ん先輩が仲間になったところで、今夜決行!お前ら二人、来なかったら明日、メリーさんの電話かけるから、よろしく!」
「鬼畜!」
「鬼!!」




とおりゃんせ、とおりゃんせ。
ここはどこの細道じゃ。




「……?」
「?…先輩、どうしたんですか?」
「いや…何でもないよ」




鈴の音と、祭囃子。僕らを呼ぶ誰かの声。
さあおいで、『神隠し』



女が嗤った。





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