十六夜の夢巡り様とコラボ | ナノ






爽やかな風が吹く、からりと晴れた一日。
ついに、体育祭が始まった。


今郷高校と水無月高校とがそれぞれ整列し、開会式が始まる。
両校の生徒会長の挨拶、そして準備体操を終えて、さっそく最初の種目が始まった。
ちなみに、今年の体育祭は、二校合同ということで趣向を凝らし、定番の競技に、かつて行われていた人気の種目から、一年で立ち消えた悪夢の競技まで、何でもかんでもごちゃ混ぜになっているらしい。
見ている分には、非常に楽しい体育祭になることだろう。…あくまでも、見ている分には、だが。
それがいかに怖ろしいかは、競技を決めた後水無月高校に帰ってきた冷泉生徒会長が、素敵で爽やかな笑みを浮かべていた、とだけ述べておこうか。
競技表を見たあみは、思わずこう呟いた。さすがはドS、容赦がない。
ちなみに、その後しばかれている。彼は女にも、モデルにも容赦がなかった。
だが、さすがに初っ端から飛ばすことはなかったらしく、最初の競技は無難な100mリレーらしい。


「ああ、よかった。これならマト、モ………マトモ?」

足の速さを生かし、第一走者の列に並んでいた沙弥は安堵のため息を漏らし、そして…固まった。


『第一競技は100mリレー。…だけど、普通じゃつまらないから、台風の後のあぜ道並にしてみたよ。転んでも怪我の心配が少ない代わりに、無様に泥まみれになるから。ま、せいぜい頑張ってね』

マイクから聞こえる水無月高校生徒会長の声が、まるで死刑執行宣告のようだったと走者達は後に語る。





「…つ、疲れた…」
「だ、大丈夫?田村さん…」

ぶっちぎりでゴールした沙弥だが、その顔には色濃く疲労の色が浮かんでいた。ただ走るだけなら、何の問題もない。走るのは好きだ、大好きだ。
だがしかし、誰が好き好んであんな泥道を走りたいと思うだろう。いや、泥道ならまだいい。雨上がりの練習では走ったことだって幾度もある。だが、あれは泥道なんて可愛らしいものじゃなかった。あれは最早タール沼だ。転べば一巻の終わり、もう這い上がれない。

ちなみに紫苑は、そうしてもがく走者達を見てとても楽しそうに笑っていた。
だったらお前が走れと抗議の一つでも入れたいところだが、彼は無茶な競技を入れるために、自分も全ての競技に出場するというまさかの強行策を持ち出し、現に走った。しかも、実に見事な走りである。靴以外に泥の一つも付けないでゴールしてしまった。
ほら出来るだろやってみろと言わんばかりだ。地味に対抗心を燃やした沙弥である。


「…やっぱりアレ、ほとんどゴールできなかったんだ」
「あ、早乙女」

日陰で涼んでいたらしい早乙女が、沙弥と平城のところに戻ってくる。
死屍累々とでも言えそうな惨状に若干顔を引き攣らせていた。


「あれはね…うん、ちょっと…」
「流石鬼畜生徒会長。愉快に笑って観覧してたらしいよ」


苦笑する沙弥に、肩を竦めて早乙女が返した。
未だ競技に出てない二人だが、早くも不安になってきたことは、言うまでもないだろう。

話している間に、次の競技の召集がかかった。