十六夜の夢巡り様とコラボ | ナノ



笑って泣いて焦って、不安なんかぶっ飛ばせ。



「……刹那…」
「ん?何だよ、琥珀」

手を繋いで走る。
たったそれだけのことに、皇琥珀は酷く赤面していた。元々女子染みた顔立ちの上、まろい赤に染まったその表情はいっそう可愛らしく、観客が生温い視線を投げかけている。

余談だが、恭真とシドという完全に男同士の組み合わせに気を取られ、加えて琥珀が女子っぽいので流していた桃園は、改めて琥珀が男だと認識して盛大にずっこけた。
何故だ。何故カップルの六組に二組、つまり三分の一が男同士。
しかも、男女のはずの田村沙弥と平城真也(今は互いに相手が違うが)は、出雲曰くBLでもGLでもNLでもいけて、おまけに、風来教諭と組んでいる相手は小学生並。
これは珍種リレーか。まだ序盤だというのに、早くも色々起こっている。
とりあえず一度視線を外した桃園は、決して悪く無い。
彼女の視線が外れた辺りで、刹那と琥珀も第一関門に辿り着く。
再びの男同士カップルに、司会者がまた困ったように実況する。


『…えー、再び男同士のカップルですが、そちらはどうします?』

「よっし、琥珀、お前が作れ!」
「ええ!?俺!?」
「お前の方が可愛い、だから作れ!」
「理不尽!」


結局、勢いに押された琥珀が作ることになり、刹那は優雅に座って見物の姿勢だ。
近くで行われている、風来と夜美ペアの、謎のパフォーマンス染みた料理(…と、呼ぶのかは解らないが)をぽかんと見物しつつ、出来上がりを待つ。
しばらくして、差し出された料理は、とても男子高校生の作品ではない。
プロ並とか、そういうことではなく、何だか可愛らしいという意味でだ。女子が調理実習で作りそうな盛り付け、とでも言えばわかりやすいだろうか。
味も美味しい、そしてやっぱり女子染みている。
ちなみに、反対側で出来上がったシドの料理は、お坊ちゃまの作品の割には上出来だった。つまり、普通に美味しい。
それに反して、紫苑と風葵ペア。この二人はまず、色んな意味で別格であった。


「しーちゃぁん、なぁに、この道具」
「それはフライパン」
「なぁに、フライパンって。パンの仲間?」
「……」


水無月高校の大抵の人間は、知らずとも予想はしていただろうことだが、桜木風葵はけっこうなお嬢様であった。
加えて、その女王様染みた性格のおかげで、下僕という名のファンというか取り巻きが、常に大勢傍に控えている。
喉が渇いたといえば飲み物が差し出され、お腹が空いたといえば食べ物が献上される。そんな状態が当たり前の彼女は、当たり前のように料理の経験などないどころか、フライパンすら知らない。
さきほど低レベルな言い争いをしていた恭真やシドと似たような状態であるといっていいだろう。
しかし、このリレーのルールは、『"彼女が"料理を作ること』である。
料理の経験などないが、確実に紫苑の方がまともな料理を作れるだろうとわかっていても、変われないのである。
あ、終わった。という表情をした紫苑の顔がかなり悲壮であったと、後に当事者は語る。

とりあえず、多くは語るまい。
ただ、その料理を食べた後、走る紫苑のスピードが極端に落ちたとだけ述べておこうか。


カップルリレー。
それはこんなにはらはらするものだっただろうかと、観客が首を傾げていた。