十六夜の夢巡り様とコラボ | ナノ
「あ、沙弥嬢!やっと来たな…食べようぜ!」
戻った沙弥を出迎えたのは、刹那の底抜けに明るい笑顔だった。 そのまま手を引かれてついていけば、見事なまでに勢揃いしていた水無月高校の有名どころ。冷泉紫苑、桜木風葵、九条あみ、皇琥珀、そして、遠野刹那。 なるほど、これは周りの生徒が何度も振り返って見ていくわけである。 美形って得だー…などと思いながら腰を下ろした沙弥は、自分も今郷高校の有名人であることを、色々と重なった事件のせいで綺麗さっぱり忘れていた。
「あ、そういえば平城も一緒に食べたいって言ってたんだけど…」 「平城って、さっきの奴だろ?もちろんいいぜ!」 「よかった」
弁当を広げながら、沙弥が平城のことを話すも、刹那は笑って承諾した。なるほどこの顔でこの性格なら、学校の王子様扱いされているのも頷ける話である。 彼のことは気になるが、ここはいつも通りにしなければ。そう思い、努めて普段通りにしようと笑って、「でも、今ちょっといなくて…そのうち来ると思うけど…」とだけ言う。 そしてふと顔を上げると、こちらを見つめる茶髪の美少女…桜木風葵と目があった。
「貴方が田村沙弥ちゃん?」 「あ、どうも。今郷高校の田村沙弥です…えっと…」 「可愛い子ねー!あたしは桜木風葵。皆風葵って呼ぶから、風葵でいいわよ」 「じゃあ…風葵先輩って呼ばせて貰います」 「よろしくね、沙弥ちゃん」
にぱっと笑った風葵に笑みを返す。刹那と同じ、明るい笑みだった。 それを風葵の隣で見ていた冷泉紫苑が沙弥をじっと見つめて、そして一言「君、田村沙弥っていうんだ」と、淡々と呟いた。 「お前今まで知らなかったのかよ!」と刹那が突っ込む。
「あ…」 小気味よい突っ込みを入れた刹那の隣には、琥珀がちょこんと座っていた。にこりと笑って会釈をしてくれる彼に、自分も笑って会釈を返す。 そしてその隣を見て、あ、と呟いた。
「モデルの…九条さん…」 「あ、はじめまして!九条あみです…あたしのこと、知っててくれたんですか?嬉しいです!」 嬉しそうに笑って、あみがそう言う。 「知ってるも何も…よく雑誌で見るんで。あ、えと…ファンです」 「わぁ、何だか恥ずかしいです…ありがとうございます!」 えへへ、とあみが笑うのにつられて、沙弥が笑ったその後。 ほのぼのとした雰囲気をぶち破るように、紫苑の心底呆れたような声が響いた。
「…あみ、キモイ」 「え…?」 「ちょ、先輩は黙ってて下さいよ!」 「何猫被ってんの?いつもより三割増しで気持ち悪い…ああ、ごめん、元からだったや」 「その憐れむような視線は止めてくれません!?」 「何で君みたいなのが人気モデルなんだろうね、この世が嘆かわしいよ。いいとこって顔だけだよね、本当、世界に申し訳ないと思わない?」 「やかましい!」 「料理をすればキッチンを壊して挙句謎の物体を生み出す、和服を着れば五歩ごとに転ぶ、魚は食べられない、書類整理は遅い、遅刻する…君なんで生きてんの?」 「うっさーい!!ドS、鬼畜、魔王、人の皮を被った悪魔な先輩よりマシだと思いますけど!?」 「しかも猫被り。君って、ファンやスタッフの前と性格違いすぎでしょ。こないだのインタビュー、趣味はお菓子作りだって?卵焼きを消し炭にするを通り越して黄緑と赤紫の物体を生み出す君が何のお菓子を…」 「そう答えた方が読者受けがいいんですぅー!!」 「彼氏いない暦十六年?…あぁ、案外君ってモテないんだ、そうだね性格が最悪だから」 「超イケメンのモデルの彼氏がいますが何か!?」 「別れたって言ってなかった?」 「もう次の彼氏がいますー!べーっだ!!」
「………あ、あの…」 「ん?あ、そっか、沙弥嬢知らねえのか。あみって、二重人格並みの超絶猫被りだから」
知りたくなかったモデルの裏の顔を知ってしまいました。
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