十六夜の夢巡り様とコラボ | ナノ
「他の生徒は気を抜かなければ勝てますね。問題は冷泉会長と遠野さんペアだ」 「…………田村。これはどういうことだ?」 「仕方ないですよ。能力と身長に合わせたペアになってるんですから」
遠くで、今にも殺しにきそうな位にこちらを睨み付ける今郷高校の問題児に、何故か俺の足首と彼女の足首をキツく結びつける紐があった。 あちらの方では、銀髪と黒髪がけたたましく言い争っている。もっとも、声を荒くしてるのは銀髪の方だが。
「……何で俺は二人三脚に出場することになっている? 風紀委員は体育祭の警備担当に」 「会長が是非望月先輩にも出場してほしいって言ってましたよ」
あの人の仕業か。 生徒会のテントに顔を向けたら、笑みを浮かべてヒラヒラと手を振る会長がいた。
「会長と走りたかったですか?」 「ッ!? ……そんな訳がないだろう。会長が俺と走れる訳がない」 「走る努力くらいしてみたらどうッスか」
ニヤリとスタートラインで笑う田村。ここまで強気に出る人間だとは思わなかったな。
「会長。私は会長に合わせますから、全力で走って下さい」 「……そんなことしても、余計にひっかかるだけだぞ」 「やってやりますよ。そして絶対……」
チラリと田村は冷泉に目を向ける。明らかな敵意、いや、攻撃的な視線だった。冷泉もその視線に気づき、鼻で笑っている。
「……ぜってー、負けられないんスよ。リレーでは、絶対に……」
静かな闘争心。 俺はなんでこんなことに巻き込まれなきゃいけないんだ。身長のせいか? あまり考えたくない。それに、あの保険医を始末しなくてはならない。怪我した生徒の誘導も、いやもう。むしろ全ての原因である冷泉会長をこらしめたい。
「二人三脚で勝てるか、わからないがな。やるだけやってみよう」 「ハイ!」
元気良く返事をする田村。隣には冷泉会長と銀髪がいた。銀髪はからかうような口調で俺に話しかける。
「風紀委員長羨ましいねぇ! 田村嬢と二人三脚出来るなんて!」 「……嬢? ああ。そうか。だから……」
あの猛獣は、殺意をこちらに向けているのか。 そんなことはどうでもいい。ちょうど近くにいるんだ。故意かどうか聞いてみよう。
「冷泉会長」 「ん? どうしたのかな? 望月風紀委員長」 「……何で、体育祭をめちゃくちゃにするんですか? 体育祭を成功させたい気持ちは同じのハズ、」 「同じ?」
準備の合図が始まる。 あの時の様に、冷ややかに笑みを浮かべる冷泉会長に、審判が上に向けてピストルをあげていた。田村が俺の首に手を回した瞬間、冷泉会長は俺に囁く。
「僕が楽しむために、この体育祭はあるんだよ」
銃声と共に、何かが切れた。
▽△
「望月先輩!!」
スタートダッシュに遅れた俺達に、冷泉会長と銀髪は先に進む。歯ぎしりの音が自分から発せられ、田村がいることも忘れてしまい、冷泉会長を始末するために追いかける。
「フフッ、単純だね」 「おまっ、勝負くらい普通にしろよ!」
「よほど更正したいみたいだな! 冷泉!」 「目的変わってるだろ!?」
『田村いけぇええええええ!! イケメンなんてぶっとばせぇええ!!』 『冷泉様ー!! 遠野様ー!!』
観客からも、不満や苛立ちが望月がキレたことにより、爆発した。主に、今郷高校の男子の嫉妬だが。 冷泉紫苑と遠野刹那の歩幅は数ミリの狂いもなく揃っていた。それだけでなく美男コンビ。女子が騒ぐのも無理はない。 その後ろについて走り続けるのは我を忘れた恐怖のヒーロー望月と、彼に必死に合わせようとする老若男女に人気な田村沙弥だ。
そして、望月は冷泉を始末するために追いかけている。この勝負の勝敗は決まっていた。
冷泉紫苑と遠野刹那が一位でゴールしても、望月は冷泉紫苑を追いかけるのを止めなかったが、風来に命令された夜美が望月をおさめたことで収集がついた。
「た、田村さん。大丈夫? 望月先輩にな……」
平城真也はうつ向いて戻ってくる田村沙弥に近づき、自分の心配した事柄を訊ねようとしたが、言葉を失った。 顔を上げた沙弥は、涙目で唇をかみ、悔しさをこらえている。早乙女が後から追いかけ、平城の背中を軽く叩く。彼なりに気をきかせたつもりだろう。
「ごめん。ちょっと一人にさせてくれ。直ぐに戻ってくるから」
ジョック程度のスピードで何処かに行ってしまう田村沙弥の背中を、二人は止めることなく、最後まで見送った。
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