「よう、冷泉の坊ちゃん…いや、ゴトーシュ様」
「…何だか、君の言い方だと、ゴトーシュ様、っていう別の生き物みたいだね。確かに僕は冷泉の当主だけど…何か用かな?」



何かきっかけがあったわけでもない、唐突に掛けられた、その一声が始まり。
基本的に、歳若いトップは舐められる。それは日本国内でも、海外でも変わらない。家に閉じ込められてはいたが、そういう外のお偉方との会合は頻繁にあったせいで、そういう事実は身に染みて知っていた。
まぁ、だからと言って、怯むわけではないが。

今まで見た中で、初めて綺麗だと思った容姿。白人特有の白い肌に、日に梳けるプラチナブロンド…いや、もうこれは銀髪に近い。射抜くような瞳は、珍しいヴァイオレット。嗚呼、綺麗だ。
この容姿だけで、彼が言う何かが暴言であったとて、許せそうな美しさを誇っている。
ここは天下の金持ち進学校だから、きっと、若い当主である自分に何か言われるんだろうな、なんて。そう思いながら彼の言葉を待っていたというのに。
その唇が紡いだ言の葉は、全く別のものだったのだ。



「…お前の目、俺と一緒だな」
「え…?」
「いや、少し珍しくてな…同じ色の奴は、初めて見た、それも日本人だろ?」



じっと、見詰めてくる紫色。透き通った硝子のような、そんな色に、訳もなく釘付けにさせられた。
一緒、いっしょだと言われた。
それが何故か、本当に何故か、訳も無く嬉しくて、開いた唇から言葉になり損ねた吐息だけが先走って零れ出す。
一度息を飲み込んで、そうして、常より僅か小さな声で、声帯を振るわせた。



「……突然変異の、遺伝、なんだ。言い伝えを信じるなら…冷泉の始祖から、紫の眼だったらしい。本家の血を継いでる人間は、だいたいそうなんだって」
「へえ…そいつは面白いな。俺んとこもな、この銀みたいなプラチナが遺伝でよ、本家の証なんだと」



紫はたまたまだけどな、なんて。
小さく喉を鳴らして笑った彼に、意図せず笑いを返した。


綺麗。ねぇ、触っていい?
引っ張るなよ。


なんて。
あっけなく僕等の間の距離は縮まって、気付いたら手の平には、柔らかい髪の感触があったんだ。
気持ちいねぇ、って笑った僕に、だろ、って返す彼が、僕の髪を掻き乱すまで、そう時間は掛からなかった。