僕等の物語を話そうか。
誰一人知らず、理解されず、暗闇に葬られた、小さなちいさな恋の話を。
それでも僕等は、冷たいこの世界を、ただひたすらに、我武者羅に駆け抜けていた。
「…君は、この写真を見たと、そう言ったね」
薄暗い部屋で、自分の前に座って俯く梨花ちゃんを見つめる。
彼女は、申し訳なさそうに怯えた表情までしていた。
テーブルに置かれた写真立てで、笑う僕とシドと、それから…。
…嗚呼、本当。どこまでも自分は、他人を傷つける。そうして、苦しめる。
それほど、自分は怖い顔をしているのだろうか。…君が、そんな顔をする必要はないのに。責められるべきは、僕であるというのに。
「別に責めてるわけじゃないよ…いずれ話すつもりだった。それなのに、ここまでずるずると曖昧な関係のままでいて…悪かったね」
「っ…そんなこと…」
「…話してあげる」
そう言って、彼女の前に座る。
真っ直ぐに僕を見つめるその双眸は、やはり、どこか彼女を連想させた。
どこまでも偉そうで、傲慢で、真っ直ぐに僕を見詰めてきた、あの美しい青い瞳を。
今でもずっと、ずっとずっと焦がれている。
さぁ、話そうか。
誰も知らない、僕らの過去を。
僕らの歩んだ軌跡を。
それから。
一生分の恋と、僕らの罪を。
―――――記憶は、急速に過去へと、遡る。