現パロ
閑→どこかの社長、リヴァンさん→SP
ギャグっぽいノリ、しかし流血
閑リアは恋人じゃない、双方恋愛未満
リヴァンさんとカインさんは多分友人関係
リヴァンさんに主はいません主探しの旅をしてます多分








一度こいつは痛い目を見た方がいいんじゃにだろうか、なんて、リヴァンは隣に座って人好きのする笑みを浮かべている閑を見て、本日何度目かの溜息を盛大に吐いた。時刻は昼の十二時を回り、世の会社員も学生も、皆昼休み、お昼時という光景で、周囲には食事を求めて大勢の人間が集っている。そう。周囲に、集っているのだ。

リヴァンからしてみればこの弱そうで食えない男はその人間離れしたとでも言えそうななりに違わず有名グループの社長という肩書を持ちながら、あろうことか、とんでもない安い大衆食堂に暢気に座っている。しかも、護衛はリヴァン一人という無頓着っぷりだ、守る対象がこれでは些か自覚が足りないと、もう何度机の下で拳を作っては殴り飛ばすのを耐えたか解らない。命を狙われる立場なら、金もあることだし、大人しくセキュリティの万全な料亭にでも行けばいいだろうに、どうしてこんな店に寄ったのか、全くもって理解不能だった。外には「吉○家」の看板が回っている。


「あれ、リア、食べないの?」
「……」
「美味しいよ、このチープな味とか、無駄な脂っこさとか、こっちのカロリーとか何にも考えてない無頓着さとか、そこら辺が全く隠れてなくて」
「せめて勧めるか貶すかどちらかにしろ…」


あれ、そもそも、どうしてこんな男の護衛になったのだったか。短期だと思って、安易に報酬の高さに釣られたのが悪かったとしか言いようがない、まさか高額な報酬の代償は、立場故に付き纏う危険の高さではなく、この面倒臭い男の相手をする手間賃ではないだろうか。結局ずるずると契約期間は伸びているし、実際リヴァンの腕は彼が回りを固めている他の護衛十人分にも匹敵するのだ、加えて閑のお気に入り、最早退路は断たれていた。切実に、全身全霊、心の底から、全力でもってして、過去の自分を殴りたい。どうしてあの日に新しい剣を買ってしまったのか、どうして銀行のパスワードを無くしたのか、どうして節約でなく稼ぐ方を選んだのか。当の本人は暢気に牛丼を食べている始末だ、自分の前に置かれた並盛りの丼が心底恨めしい。否、牛丼は美味しいが、そういうことじゃない。

もう我慢ならない、今日こそすっぱりきっぱり言ってやると、リヴァンが閑に向き直ったその時。す、と、細められた閑の氷の双眸が、リヴァンを射抜いた。否、違う、リヴァンを越えて、後ろの席に向かった。その瞬間にリヴァンが剣を引き抜けたのは日頃の訓練の賜物と実戦において数多の敵を切り伏せた実績に基づいた条件反射であり、正しく言うなれば、その瞬間、リヴァンは正しく状況を理解していなかった。理解、出来なかった。


「な、っ…!?」


からん、と、カウンターに気の抜けた金属音が転がる。何だ、これは。自分が切り捨て、真っ二つとなった銃弾の片割れが、そのままカウンターを転がり、床へと滑り落ちる。その僅かな時間は、まるで永遠にも感じられる。まさか銃弾を切り捨てるなんてとんでもない芸当をやってしまえる存在がこんな大衆食堂に、しかも女でいるなど考えもしなかったのか、平和なこの日本では滅多にお目にかかれないような拳銃、リボルバーを携えた金髪の大柄な男も、ぽかんとその光景を見つめていた。一瞬にして静まり返った店内で、いつもと同じように、片手に丼、片手に箸を持ったままで、閑が笑う声だけが、嫌に頭に響く。


「あれ、今日は外国のお客さんか」
「っ、この馬鹿!何を暢気に食事を再開している!いいから牛丼を置け後でいくらでも食べろそして早く避難しろ!!」
「リヴァン」


丼と箸を持ったままなのはまだいい、食事の途中で襲われたのだ、それは仕方ない。しかし、銃弾の末路を確かめた後に、再び食事を再開するのはどういう了見だ。思わず怒鳴りつけるリヴァンの言葉尻りを捉えるように、閑が甘ったるく、そしてどこか冷たく、リヴァンの名を囁く。細められたアメジストの瞳はライトを受けて酷薄に揺らめき、リヴァンを映して、愉悦に口角が釣り上がった。蠱惑的な笑みのせいで、周囲の喧騒は聞こえない。決して大きくないはずの彼の声が、脳髄に染み渡っていくような気がした。




「期待、しているよ」


ぞくりと、背筋が震える。嗚呼。そうだ、彼は、冷泉閑、だった。他者を操り他者を心酔させる、そんな男。ただ弱くへらへらとしているだけでなく、上に立つ者としての才知を十二分に兼ね備えた、不気味な芸術品。リヴァンにとって、閑が守る価値のある人間かはともかく、仕事とはいえ、ひ弱で惰弱な人間を守るだけなど、真っ平御免だと思っていた。けれど、彼が、閑が他者を従え上に立つ存在たる人間なら、給料分の仕事をするにおいて相手に不足は無い。構えた剣を握り直す、感覚は既にリヴァンの手元に戻り、最大限にまで研ぎ澄まされていた。相手はたったの五人、いくら拳銃があろうとも、戦乙女と讃えられるリヴァンの相手ではない。柔い絹を思わせる金髪が宙を舞う。並の兵では、一個師団率いてこようともまだ足りない。そんなものでは、戦場を舞う彼女の美しさに傷どころか、泥一つ付けられない。彼女が浴びた血は洗礼の血潮にさえ見えるほど、駆けるリヴァンは美しかった。宗教画でも思わせるその戦い様を見て、流血沙汰の傍で難なく食べ終わったらしい閑が、暢気に水を飲みながら、心底愉快気に笑っていた。


地を蹴り剣を振るいながら、支配者然と笑う閑が視界に入り、リヴァンはふと視線を逸らす。給料分には、守るに値する人間だとは、悔しいが認めた。いつ叩きつけてやろうかと懐に忍ばせていた辞表は、どうやら役立たずになってしまったらしい。血潮を吸って最早読めなくなったそれを、無造作にゴミ箱に放り捨てた。