コラボ三カプ





「由季……」

頬は薄紅色に染まって、 長い睫から垣間見る赤いルビーの様な瞳が私を見つめていた。
呼吸は乱れ、 フラフラと体が左右に揺れる。
振り絞った声はなんともか細い声で、 いつもより低い声が私の名前を呼んだ。

「大丈夫ですか?」

そう私が聴くと、ジャックさんがこくりと縦に頷いた。
2、 3回瞬きをして、 首筋から汗がたらりとこぼれる。
今にも眠りそうな彼がまた私の名前を呼んだ。

「由季……」

だるそうにジャックさんが呟く。
ビクリと肩を震わせ、 思わず声が漏れた。

「そばに居ますから大丈夫ですよ」

私がなだめるように頭を撫でた。
ジャックさんが気持ちよさそうに目をつぶる。
黒髪は思ったよりもやわらかい。

何か特別な事でもしているのだろうか? 
そう思いながら髪の感触を楽しんでいると手を掴まれた。
思わず、 声が漏れそうになる。
下の方に視線を向けるとジャックさんと目があった。 


だけど 何かが チガウ

ゾクリと寒気がして頬から汗がこぼれ落ちる。
ゲホゲホと彼が咳き込み、 ダルそうに前髪を掻きあげた
見開かれた瞳がにんまりと弧を描く。

うすい唇が喉を鳴らすようにくくっと笑っていた。


気が付いたらベッドに押し倒され私が彼を見上げる形になる
天井の明かりがちかちかと光り、 ジャックさんの黒髪を輝かせた。

「え?……」

私が呟いた時にはすでに遅く。
思わずごくりと唾を飲み込む。

どうしてこうなった?

そう思うと思い出されるのは数日前の出来事で走馬灯のように思いでが駆け巡った。



***


オズさんが笑っている。 やはり主な元凶はこの人なのか、 私が気が付いた頃にはすでに遅かった。
どうして泉に遊びにきたのか、 それはカインさんのリフレッシュの為でもあった。
徹夜三昧のカインさんの体はすでにフラフラで私もみたが凄まじい姿だった。
それでも伯爵のプライドなのか気品あふれる姿は尊敬する。
途中意識を手放して扉にぶつかったり、 手を滑らせて花瓶をわったりとしていたけども。
その原因の一つがジオさんということもあって父親であるオズさんが激怒したのが事の始まり。
今はジオさんにすべての仕事を押し付けしばしの休憩をしていたのだ。

地面にシーツを置いてカインさんがまったり梨花ちゃんと紅茶を楽しんでいる。
そして不安だからと私たちが見張りにきたということだ。
だけど心配は不要だったらしいカインさんがまったりくつろいでいる。
それでオズさんの悪戯心に火がついた訳なんだけども

一瞬の早業、 破壊神である夜美ちゃんもびっくりである。
泉を茫然と見ているジャックさんの背後に回り込み、 思いっきり足を振り上げ蹴りを入れた。

「なっ!!?」

そう、 ジャックさんの小さい呻き声が聞こえたかと思うとドボンと大きな水柱が立った。
先程いた彼の姿はみえず、 泉に波紋が走る。

急いで泉の近くへと行くとぶくぶくと気泡が浮いている。

「ジャ、 ジャックさん!!?」

「あーーははははははは!!!」

彼が落ちただろう付近に指さし、 オズさんがケラケラとお腹を抱えて笑っていた。
目にはうっすらと涙を浮かべて笑っている。
隣にいた夜美ちゃんが何やってんだコイツみたいな表情で幻滅していた。

数秒、 オズさんの笑い声だけが聞こえたと思ったら泉の方でものすごい音がする。
ぷはっと顔を上げ、 ずぶぬれのジャックさんが水面にあがってきた。

眠たそうな顔は一気に不機嫌そうな顔になり、 煩わしいように髪をかきあげた。
ワイシャツが濡れて、 彼の体つきがよくわかる。 引き締まった体のラインと肌に絡みつく髪、 何やら見てはいけない気がして思わず下を向いた。
そんな私の様子に気がつかないでジャックさんがオズさんを睨んだ。


「オ、 オズ……てめぇ・・・」


正直な所怖い。 ヤクザみたいな表情を浮かべた彼に思わずごくりと唾を飲み込む。
怒られているのは私じゃないのにすごく謝罪をしたくなるそんなオーラを出していた。


「あははははっ!! 兄さんが油断しているのが悪いんだよ!!」

そんなジャックさんが怖くないのか、 はたまた慣れているのか
あざ笑うようにオズさんが口をあけて笑っていた。

怒りのあまりブチっと血管がキレそうな彼の口元から呪怨みたいな舌打ちが聞こえた。
ふいに水しぶきが顔に軽くかかった。
ジャックさんが水面から上半身を出し、 オズさんの三つ編みを引っ張ったのだ。

「……あ”……?」

想像してなかったことが怒ったらしい珍しくオズさんから自然とこぼれただろう声が聞こえる。
ジャックさんがにやりと弧を描くように笑ってみつあみを握りしめたまま泉の中へとまた入る。

「待って兄さっ」

弟の悲痛な声は兄に届いていない様で、 みつあみを握りしめられたオズさんが冷たい泉の中へとはいった。
ザッパーンっとまた大きな水柱が走る。
すぐさま水面へと浮かび、 苛立ちの声が聞こえてきた。

「あ”あああああ!! 兄さんのせいで服がびしょ濡れなんだけど!」

「先にやったのはてめぇじゃねぇか!!」

「この後会議だったんだけど!」

「知るか!!」

あほ、 たこ、 おたんこなすと言ったなんとも変な罵倒が聞こえ思わず噴き出しそうになる。
そういえば夜美ちゃんが教えたんだっけ?
ちらりと夜美ちゃんの方を見れば恥ずかしそうに下をうつむいて服の裾をぎゅっと握りしめていた。
まさかこんな時に使うとおもってなかったもんね。
同情のまなざしをしつつ、 なお泉で兄弟喧嘩している2人を見つめた。

こんな光景を見れば偉い人なんかには見えず、 ただの仲のいい兄弟に見えた。


「大丈夫?」

そうふと声が聞こえ、 上を見上げるとカインさんがいた。
ジャックさんと同じ赤い瞳が大きく見開き、 驚きの表情をしていた。
隣にいる梨花ちゃんはカインさんの背後におり、 黒いマントをぎゅっと握りしめている。

「何やらすごい音がしたようだけれど」

「大丈夫ですよ」

苦笑を含めてそう言うとカインが首をかしげて「そう?」と小さく呟いた。
泉の向こうの2人(未だ喧嘩してる)を見ると、 とても年下とは思えなかった。

まぁ私よりは年上だろうけれど。
横にいる梨花ちゃんも私の同じくらいの年齢だと思う。
あまり確信はないが、 けれど落ち着いた雰囲気。
色気、 体型……
思わず自分の体を見る。
胸は……ある方なんだけど
ちらりと夜美ちゃんをみると私と同じ行動をして頭に額を乗せショックを受けていた。

「伯爵、 そろそろ時間。 仕事あるでしょ?」

「あぁ、 そうだった」

口元に手を当て困ったように笑う。
休みが欲しいねとぼやきつつ慣れた手つきで鞄に書類を詰め込んだ。 お茶会でも書類に埋もれるカインさんをみて
梨花ちゃんが心配そうにみつめていた。
 
片付け終わるとArrivederciと使い慣れたイタリア語を言って2人は屋敷へと戻る。
まるで絵を切り取ったような2人だな。
思わず、 私はため息をついた。

あんな風に私も釣り合ったらいいのに。
不意にそんな思考が巡る、 だめだもっと前向きにいかないと。