グロ注意





 生きてきて、初めてかもしれない。
 肉体は全く違う。髪は染めているだろうけど海みたいに青いし、ピアスとやらが目元や耳、口元とかたくさんある少年だ。私みたいに切りつけても治るわけではない。だけど、かなり私と価値観が似かよっていた。


「……わかって、くれるの?」
「そりゃもう、そんなジュースがあるなら飲んでみたいねェ」
「だ、だって目玉を磨り潰すんだよ? で目玉で飾り付けるの。好きっ……てわけじゃないけど、別に作ってもおかしくないよね? 魚の活け作りがあるんだから」


 それでも、目の前の男――真宮真白はヘラヘラと笑いながらなおさら面白そうだと答えてくれた。
 人間を材料にして料理をする。太もものステーキ、腸の皮を利用したソーセージ、脳みそは汁物に、目玉はジュースに、心臓は生物で塩を味付けする。髪の毛は流石に食べれないかも。それでも最初の段階で人間はアウトだった。豚とか、牛とかと同じことしているのに。
 目の前の男は異端者なんだろう。だけど、自分の価値観を肯定されるのはとても嬉しいことだった。

 真宮と共に河川敷、さらに橋の下の人気のない場所で語り合ってると、自然と笑みが溢れる。真宮はただ、ニコニコと小さな子どもを愛でるような表情を浮かべてこう口にした。


「夜美チャン。セックスしないィ?」
「ぶー!!」
「あははは!! きたねぇー! もしかして処女ォ? かんわいィー」
「しょしょしょ、処女じゃないしぃ!?」
「ヘェ〜。経験済みねェ」
「ちょ、近寄らないで。まじ近寄らないで」


 座りながら語り合っていたから、立ち上がろうとする前に足首を引っ張られた。そのまま地面に転んでしまう私に、真宮は覆いかさばってくる。


「ちょっとたんま!! お前、こ、殺すぞ!?」
「俺にとっちゃどっちも同じィ」


 真宮をはね除けようとしたけれど、真宮はニヤニヤとしたままで退こうともしない。
 真宮を退かすことなんて簡単だろう。だけど、もし本気をだしてコイツが死んだら今みたいに語れるやつはいなくなる。
 また、もっとお話がしない。でも、でも私は……。

 ムカつくヤツの、それでも私の頭の中を支配するアイツの笑った顔が思い浮かんだ。付き合ってはいるけど、一回も体を重ねたことのない男の顔。
 唇を噛んで、私はただ抵抗するために体を小さくさせようとすると、真宮が重力に逆らうように私から離れた。呆気にとられる私の目の前には、思い描いていた男の顔に、靴底だった。


「い゛っ、あ゛ぁああああ!!」
「……なにしてるのかなぁ? 浮気なんていいご身分だねぇ、夜美」


 地面に思いきり押し付けられるように頭を踏まれた。
 頭蓋骨が、押し潰されそうだ。
 いや、潰される。割れる。脳みそが、ぐちゃってなる。

 激痛に悲鳴を上げるわたしに、オズはせせら笑った。


「……誰でもいいんだろ? お前はただしたいだけなんだろ? なら、叶えてあげるよ」


 くすくすと笑ったオズが私の頭から足を退かせたかと思ったら、ナイフを取り出して、私の皮膚ごと服を切り破った。
 切る時の痛みは一瞬で、後からくる鈍痛に顔を歪めると、真宮が先程とは違う様子で私に近づいて、目を真ん丸にさせながら私の切傷に手をあてた。


「……血、血ィ」
「……▼なのかな? まぁいいや。君は君で勝手に動けばいい」
「オズ……!?」
「僕の名前呼ばないでくれる? くすくす……そうだ。口を縫い付けちゃおう。それなら話せない」


 オズが何処から取り出したのか、メスやナイフ、糸や針を取り出した。
 逃げなきゃ、ダメだ。
 だけど、真宮が私を切りつけた腹部から胸元まで続いて切傷からにじむ血を犬みたいにペロペロと舐めてるせいで全く動けない。
 オズが、笑いながら針に糸を通した。そして、その針は徐々に私の唇へと向かい、口の端かにあてがおうとする。何をしようとしているか明白で首を左右に振って拒否しようとするも、オズはニッコリと口にした。


「捨てられたいの?」


 それは、何よりも恐ろしい脅し言葉だ。
 怖い。痛い。絶対、あの針が、何回も私の口に、やだ、でも、捨てられたら、ひとり。それは、もっとつらい。いやだ。ぜんぶいやだ。


「ふぐっ……うぇえ」
「泣いて許されると思わないでよね」


 オズはただ、私の頬に冷たい手を添えて、口の端に針を通した。
 針が通る度に、悲鳴をあげる。そしてさらに痛くなる。
 糸が残る。糸が痛みを継続させた。
 ゆっくりと、拷問するように、口を縫い付け終わる頃には口は開かなくなって、血がだらだらと顎から鎖骨、そして胸を伝っていた。真宮はそれを歓喜して舐めとっていく。


「ざまぁみろ」


 ケラケラと笑うオズに答えることも、誤解をとくことも、好きだと言えることもない。
 心臓を鷲掴みされたように痛くて、喉を圧迫されたみたいに苦しくて、コーヒー以上に苦かった。
 私は、ただ涙を流して、口を閉じていた。