グロ注意





 頭がぐらんぐらんと振り回されてしまっているみたいだ。
 冷たく見下ろしていたオズは、ニコッと貼り付けた笑みを浮かべた。それがまた状況に不似合いで背筋がブルリと震える。
 手の中の心臓が、動いているみたいだった。私の手の震えだろうけど、まるで私の心臓みたいに脈だっていて、オズの視線に捕らわれていた。
 なんとかしてこの沈黙を破らなければならない。だけど、言葉が見つからない。


「楽しかった?」


 満面の笑みで、オズはしゃがみこんで池に浮かんでる私に問いかけた。
 答えられるわけがない。楽しかったとか、楽しくなかっただとか。だってオズは、どっちを答えたにしても……凄く怒っているんだから。
 すっと目を細めたオズが口角を吊り上げる。口が裂けるんじゃないってくらい、無理矢理、ギリギリまで。


「男に、抱き締められた形でしかもその男の心臓を得て満足なの? 文字通り心が欲しかった? よかったねこの淫乱バケモノ。僕が好きとか言いながらそんな男の心臓を物理的に手に入れて満足なんだから。ああ僕の心臓はお前みたいな女にやるわけないけどね。あ、僕のことなんとも思ってなかったのかな? 僕はただの遊びだよね。ごめんね気がつかなかった。まぁバケモノの考えていることなんて理解できないし理解したくもないんだけどね。何? 何か言い返したらどうなの? だいたいさその血の池だって君の仕業だよね? そんなに他の男の血が欲しかったわけ? 君吸血病なの? バケモノで吸血鬼とかあり得ないんだけど。そういえばさっきあの男に噛みつかれていたよねもしかしてソイツも吸血鬼だった? バケモノ同士相思相愛だった訳だおめでとう!! お前みたいなクソなバケモノでも愛してくれるバケモノがいたわけだね! よかったよかったなんていうと思った? バケモノ同士でもお前は格別バケモノなんだよ元にソイツ死んでるだろ? お前は絶対誰とも一緒になれないだってバケモノの中のバケモノなんだからそれに僕がさせるわけないでしょ君なんて一生未来永劫一人で孤独で寂しく生きていたら良いんだ許さない君だけが幸せになるなんて僕に好きだって嘘をついた君なんて死なずにずっとずっとずっとこの世で苦しめばいいんだずっとずっとずっとずっとずっと! そのためなら僕はなんだってしてやるよよかったねバケモノ僕直々に不幸にしてやるっていっているんだ喜べよ泣けよ苦しめよ狂えよ!!」


 オズは、それからもずっと話続けていた。私に何か言わせる暇もなく、ただ、自答自問しているみたいに。
 オズは何かを話ながら、私が手にした心臓を握って私の口に押し付けてきた。逃げようともがいたけれどオズはケタケタと笑いながらさらに口に押しつける。


「食えば? それで文字通り一つになれるよ? 食えるでしょ? バケモノなんだから。ねぇ、君の大好物なんでしょ? 食べたいものなんでしょ? ねぇ?」
「やっ、ぁ!」
「嫌ってどの口が言ってるの? こんなに池を真っ赤に染めた君が!!」


 やめて、やめて。
 私はこんなことしたくない。ただ、ただ、ただ……!!


「言い訳するならもっといい言い訳すれば?」


 ぷつん、と私の何かが切れた。私はオズが押し付けてくる心臓に指を這わせて、手の内に無理矢理包み込んだ。
 飛び散る血しぶきは私とオズの顔を真っ赤に染めて、そのまま私は池から這い上がってオズに飛びかかり、オズに股がって心臓の場所にナイフをあてがった。
 錆びているから、使えないはず。だけど、それでも私は刺すふりをして、オズの目を真っ直ぐ見つめて、口にする。


「食べるなら、お前の心臓だ」

 美味しそうだね。
 きっとオズの味が凄いするんだ。オズの血、オズの命、オズの肉。私の歯にまとわりついて舌にのって唾液と共に一緒になって肉となる私とオズは一緒になる。
 オズの心臓。欲しい。食べたい。味わいたい。ねちゃねちゃと噛みた……。
 そっと、オズが私の頬を撫でていた。我に返った私の瞳には、ニヤリと笑ったオズの顔が映る。


「欲情しきってるね、このド変態」


 ああ、私は変態かもしれない。バケモノでもあるだろう。
 だけど、何故かオズからは逃げられない気がする。
 頬を滑る手が偽りか真か理解するつもりもなく、本能に身を任せて瞼を閉じた。