「刹那さんは本当にカッコイイですよね。私も刹那さんみたいに恰好良かったら、桃ちゃんとあーんなことやこーんなこと出来たのでしょうか」
「麻世嬢にそう言われたら俺も一肌脱ぐしかねぇな!!」


 こんにちは。皇琥珀です。
 ことの発端は今の会話。今郷高校の生徒会長、阿守麻世さんと刹那が桃園さんと仲良くなるために口説く練習をすることになった。そこにたまたま通りかかった平城君が加わって……。
 ちょっと待って。本当なんでこうなったの? 桃園さんってたしか女の子だったよね? で、阿守さんも女の子だよね? 阿守さんっとそっち系の人!? というか刹那やる気になりすぎないで!! 刹那がやる気になればなるほど平城君も阿守さんも暴走するんだから!! 二人を止められる人なんてこの場にはいないよ!? 刹那は笑ってスルーだろうし俺は命がマ〇オ並みにあっても絶対クリアできない!! ムリゲーだよ!!
 なんてツッコミを(特に平城君の前では)言えるわけもなく、苦笑を浮かべるしか出来ないのは俺だけじゃないと信じたい。


「まず、相手の気持ちを尊重しねー奴の言葉は相手の心には届かねーもんだ」
「ふむふむ」
「だから、会話をしつつ相手を喜ばせてお茶とかに誘う。まず俺が手本を見せるから見てろ。麻世嬢はそこで楽にしててくださいね」


 フェミニスト精神は相変わらずで、阿守さんに優しい刹那に脱力しそうになる。
 刹那はキョロキョロと周りを見渡して、ある銀髪に……声を……。


「はぁい!」
「うおっ!? だっ、何だてめえ!!」
「俺は遠野刹那だ」
「…………刺客か!? 俺の魂狙いに来たのか!?」
「魂よりお前のハート狙いにきた感じだな」
「上等だ!! その喧嘩かってや」
「おおっと。まちな」
「!?」
「ここはレディーが見ている。喧嘩するならもっと人目がないところで……しかも暴力的じゃない平和的な方法でいこうじゃねぇか」
「……なんだ、それは?」
「そうだな。お互い喜ばせた方が勝ちってゲームをしよう」
「よろこ……?」
「お前の笑顔がもっと見たいってことだな。しかめっ面ばっかしてっともったいねーぞ?」
「なっ!?」
「お前の好きな場所に付き合う。どうだ? この喧嘩のるか?」


 ちょっと何時もとテンションと口説き方が違うのは人によって徐々に変えていっているからかもしれない。
 茶藤陸さんは少しだけ唇を尖らせて、そっぽを向きながらボソリと答えた。こころなしか、頬が赤い。


「……売られた喧嘩は、買う主義だからな」
「やりっ!! じゃあ四時に校門で待ち合わせな!」
「ぜってー忘れんなよ!!」


 そのままドカドカと歩き去る茶藤さんに、刹那はニコニコしながら戻ってきた。


「こんな感じだな」
「すごーい!」
「流石刹那さんですね」
「いやぁ嬉しいねぇ」


 照れたような仕草をする刹那に、パチパチと平城君や阿守さんが拍手をしていた。毎回思うけど、本当に天晴れだと思う。
 そんな時、平城君がいきなり顔をあげると、その視線の先にボーイッシュなセーラー服の女のコがこちらに気がついて近づいてきた。


「お、おれ頑張る!!」


 次にちょっと興奮した平城君が田村さん向かって走り出した。田村さんはぎょっとして廊下の端に寄るけど、平城君は壁に両手をついて、逆に田村さんを逃がさないようにしている。


「ひ、らじ」
「沙弥ちゃん可愛い」


 たしかに刹那、喜ぶことを言えとは……言っていたけど。
 直球過ぎやしないか?


「あ、え」
「ちっちゃくて可愛い。髪の毛さらさらだし凄い良い匂い。性格もお化け怖いのとか守ってあげたい。甘いもの好きだし、もう本当にかわいい! かわいいのになんでそんなに綺麗なの? 俺もう沙弥ちゃんを目にいれても絶対痛くないむしろいれてずーっと見てたい!!」
「お、おちつ」
「好きなんだよ。ねぇ大好きなの。もっと俺を見て? 必要として? 沙弥ちゃん。沙弥」
「うわぁあああああああ!!」


 そのまましゃがんで逃げようとした田村さんだったけど、ぐいと壁につめよられて身動きとれなくなっていた。そんな田村さんを平城君は、ニッコリと微笑んで。


「逃げちゃダーメ。……まだ、口説き足りないもん」


 そのまま田村さんを抱き抱えて退場する平城君。担がれた田村さんの目が死んでいて、思わず合唱してしまった。


「……あれは、ダメな例だ。自分を押し付けすぎてるからな」


 それは俺にもわかるかも……。
 静かになった廊下に、阿守さんがよしとガッツポーズをして意気込んだ。今ので場の雰囲気が変えたのは意図的なのかな。


「せっかく刹那さんが教えてくださったのですから、私も頑張らなくては!! あ! 丁度あそこに桃ちゃんが!! 桃ちゃーん!」


 とてとてと桃園さんに駆け寄る阿守さんに気がついた桃園さんが、中腰にしゃがんで両手を広げて近づいていた阿守さんに接近し、腰に腕を巻き付けて上半身を一気に海老反りにさせた。
 口説く暇もなく脳天を地面に叩きつけられた阿守さんは昇天しかけてて、そんな阿守さんに唾を吐き捨てて桃園さんは立ち去っていった。

 口説くのって、こんなに難しかったの?