病み刹那の独白
恭真死亡ネタ、ネタバレ有り
恭真に愛されたかった刹那の話







例えばの話だ。
今ここで誰かが死んだとしても、微塵も世界は揺るがないし、精々数年しか知人は悲しまないし、他人はきっと数分で忘れるし、何の影響も起こらない。
なぁ、そうだろ。
誰も彼もが饐えた臭いの肥溜めん中、灰色の空眺めて生きている。死んだみてェに、その醜く肥え太った身体引き摺ってさぁ、小せぇスマホの画面眺めて歩いてんだろ。
嗚呼糞、そのまま車にでも轢かれて死んじまえよ。なぁ、おい。

イライラする、イライラする。
どうせ清く正しく生きても、明日に死ぬかもしれないんだろ?だったら好き勝手してやるよ、自分のやりたいようにやってやる。
笑えるなぁ、おかしいなぁ。
この世界は馬鹿ばっかりだ。
自分は遊びで人を殺すくせ、自分が遊びで殺されそうになると、途端に無様に命乞いなんか始める。
馬っ鹿だねぇ、ホント馬鹿。
あはは、ふふ、遊びで殺すんならさぁ、遊びで殺される覚悟ぐらい持ってろよ。


血生臭いヘドロ踏んで生きてくことにもう抵抗感は無いんだ、でも、どうしてかな。胸のここが、何故かむかむかするんだよ。
気持ち悪くて、気持ち悪くて、吐きそうなんだ。

結局は誰も主人公にはなれなくて、ラスボスにだってなれなくて、いや、それどころか。登場人物にもなれやしない。
精々名無しだ、村人Aだ、その程度の存在だ。
あの人でさえ、登場人物なんかじゃない。世界の全てを支配してるみたいなあの人だって、結局はただの生贄で、ただの人柱で、代替わりしちまえば何の意味もなくなる。

止めて嫌だ消えないで。
貴方のような存在が、消えてしまわないで。死んだら意味がない、死んだら、誰の記憶からもいなくなってしまう。
嫌だ、嫌だ。俺をこんなにしたあの人が、そんな。世界如きに殺されるくらいなら、偶然なんかに殺されるくらいなら。




「俺の手で殺してやる」


だからどうか、俺を見て下さい。
父さん。





「はは、ははは…ははっ、あはははっはははハハハハはは…!!!!ほら見てよ父さん!!!俺やったよ!!アンタを殺してみせたんだ!!!!ははは、あははははハハはハハハはは!!!!これでっ、これで俺を愛してくれるよなぁ!!?アンタの望みを、あは、はは、ほぉら、俺が叶えたんだ!!!」



俺が、俺だけが。アンタが死ぬほど焦がれたモンを与えられたんだ。
だから、ねぇ、お願い。俺を見て、俺を愛して、よくやったねって、いいこだねって、褒めて、頭を撫でて、笑って。




「っ、ふ、は……おめで、とう、…これで、君は勇者だ。一山いくらの、どこにだっている、何の変哲もない、勇者だ、



  ざ ま あ み ろ   」



「っ、あ……ああ…あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!嫌だぁ…っ父さん、父さん!!俺を、俺を見てよぉ!!!!そんな、ひっく、世界なんて曖昧なモンじゃなくてぇ!!俺を見てぇ…っ!!!!」




誰より死を望んでた父さんを俺が殺してみせたって、結局あの人が執心してたのは、自分をこんな目に遭わせた世界って奴に思い知らせてやることで、俺なんて最初から眼中になかったのです。
心臓に突き立てたナイフから血潮が滴り落ちても、口角から血が垂れても、最後まで父さんは、一度も俺を見ちゃくれなかった。
忌々しいほど青い空を見上げて、不敵に笑って、そうして死んでしまって、残された俺はただ泣き叫ぶしか出来ないんだ。




嗚呼。
本当、大っ嫌いだ、こんな胸糞悪い世界なんて。